高カルシウム血症

高カルシウム血症の症状は漠然としている

  • 高カルシウム血症はしばしば遭遇することがあるが特徴的な症状は乏しいため臨床症状から疑積極的に疑うためには、漠然とした体調の悪さの鑑別に常に高Ca血症を鑑別に入れる姿勢が必要である。
  • 軽度の場合は無症状である。12~13mg/dl以上で倦怠感、疲労感、食欲不振などが起こり、さらに高度になると筋力低下、口渇、多飲、多尿、悪心、嘔吐が出現する。精神症状を起こすこともあり情緒不安定からはじまり、傾眠、めまい、昏睡と進行する。
  • 高Ca血症が起こりやすい状況を意識して不定愁訴と考えても一度はCa濃度を測定する。アルブミン補正も忘れないように。

原発性副甲状腺機能亢進症と悪性腫瘍が多い。

  • 高カルシウム血症の原因は骨からのカルシウム放出の増加、および腎臓における尿中Ca排泄低下により生じる。
  • この中で骨吸収増大によるCa放出が最も頻度が高く重要な病態であり、原発性副甲状腺機能亢進症悪性腫瘍で高Ca血症の90%以上を占める。
  • 消化管からのCa吸収増加は腎機能正常では高Ca血症になりにくいが、腎機能低下では高Ca血症になりうる

1、まず薬剤性を除外する。

  • 活性化ビタミンD3、サプリメントのビタミンD、サイアザイド性利尿薬、テオフィリン、リチウムの服用を確認する。
  • 活性化ビタミンD3製剤は骨粗鬆症の治療で使われる薬剤であり、常用量で高Ca血症となることは少ないものの、高齢者で脱水やNSAIDの服用で高Ca血症になることがある。処方薬以外のビタミンD製剤でも高Ca血症は起こりうるのでサプリメントも確認する必要がある。
  • カルシウム製剤のみの場合は大量摂取でのみ起こりうるが稀である。
  • サイアザイド系利尿薬は腎からのCa排泄を抑制するために高Ca血症を引き起こすことがある。尿中Ca排泄を調べても鑑別はできないので薬剤中止をして経過を見る。
  • テオフィリンは中毒域になると高Ca血症の原因となる。テオフィリンの血中濃度低下により速やかにCa濃度も改善する。
  • ビタミンA大量摂取、とりわけレチノイン製剤との併用で起こるビタミンA中毒で高Ca血症を引き起こすことがある。
  • リチウム製剤も高Ca血症の原因となる。

 以上の薬剤性高Ca血症が明らかな場合にPTHはリチウム、テオフィリンを除いて低値になるので、PTHが低値でない場合は原発性副甲状腺機能亢進症の合併も考慮しなければならない。

  • 不動症候群(immobilization)は寝たきりなどの場合に骨のハイドロキシアパタイトが溶解しやすくなるために高Ca血症をきたす病態である。ねたきりになった最初の2週間で起こることが多いがその後自然と正常化する。
  • ミルク・アルカリ症候群は消化性潰瘍の治療として行われた牛乳と炭酸水素ナトリウム投与により当初報告された症候群で、アルカローシスによる腎でのCa再吸収亢進が原因で起こる病態である。高Ca血症、代謝性アルカローシス、BUN/Cr上昇を3徴とする。現在では高齢女性の骨粗鬆症に炭酸カルシウムとビタミンDを投与したときに見られることがある。

2、PTH、PTHrp、1.25(OH)2ビタミンD3、リンを測定する。

  • 薬剤等の原因が疑われるときもPTH(intactPTH、高感度PTH、wholePTH)、PTHrp、1.25(OH)2ビタミンD3、リンの測定は必須である。高Ca血症ではPTHが抑制されるので、正常値範囲でも高めであれば原発性副甲状腺機能亢進症の可能性を考えなければならない。
  • PTH高値の場合原発性副甲状腺機能亢進症(primary hyperparathyroidism:pHPT)家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症(familial hypoclciuric hypercalcemia:FHH)を鑑別する。
  • FHHは軽度の高Ca血症にとどまり治療を必要としない病態である。診断には1日塩酸蓄尿によるFECaの評価が必要である。

       FECa(%)=尿Ca(mg/dl)/尿Cr(mg/dl)×血清Cr(mg/dl)/血清Ca(mg/dl)×100

  • FHHはFECa<1.0%の場合に疑う。但し腎機能低下時(クレアチニンクリアランス50ml/min以下)はFECaの評価は出来ない。FHHでは家族歴(常染色体優性遺伝)、副甲状腺腫大がない、血清マグネシウム高値、血清1.25(OH)2ビタミンD3低値という特徴があり、pHPTでは低リン血症、リン再吸収率の低値、高Cl性代謝性アシドーシス、骨代謝マーカーの高値などが参考になるが決定的な鑑別点にはならないので鑑別には十分な検討が必要である。
  • 近年、後天性低Ca尿性高Ca血症(Acquired hypocalciuric hypercalcemia:AHH)という病態が報告されている。Ca感知受容体(calcium sensing receptor:CaSR)に対する自己抗体によりCaSRの機能低下が引き起こされる比較的まれな疾患である。アレルギーや自己免疫疾患の合併例が多いようである。対症療法でコントロールできない時はステロイド治療の適応となるが無効のこともある。(日内会誌2014;103:1180

3、FHHが除外されれば原発性副甲状腺機能亢進症である。

  • 原発性副甲状腺機能亢進症(pHPT)は80~90%は弧発性腺腫、10~20%はびまん性過形成である。
  • 稀に多発性内分泌腫瘍(multiple endocrine neoplasia:MEN)を合併している場合や多発性腺腫がみられることがある。副甲状腺癌は非常に稀である(<1%)。
  • 異常副甲状腺の局在診断にはカラードプラーを用いた超音波と99mTc-MIBIシンチグラムが有用である。

4、悪性腫瘍には2種類の高Ca血症がある

  • 悪性腫瘍に伴う高Ca血症ではPTH低値、PTHrP高値となる悪性体液性高カルシウム血症(humoral hypercalcemia of malignancy:HHM)と骨転移に伴う広範な骨破壊による高Ca血症(local osteolytic hypercalcemia:LOH)がありHHM80%、LOH20%の頻度である。
  • HHMは最も高頻度に見られる腫瘍随伴症候群で肺、腎、乳腺、頭頚部、膀胱などの進行癌患者の約10%、末期癌患者の30%、成人T細胞性白血病の80%に合併する。
  • LOHによる高Ca血症は多発性骨髄腫や乳癌などで多くみられる。多発性骨髄腫では原疾患による腎障害に加えて高Ca血症による脱水による腎前性の要素も加わりより高度の高Ca血症を起こす。
  • PTHrP高値は悪性腫瘍以外でも起こることがある。SLE、HIV関連リンパ節症、胸部のリンパ浮腫と空洞性病変、妊娠中の乳腺腫脹、卵巣や腎の良性腫瘍、褐色細胞腫などでも高Ca血症が報告されている。(J Clin Endocrinol Metab 90:6316,2005)

5、PTHrP、PTH共に低値で1.25(OH)2ビタミンD3高値の場合は肉芽腫性疾患を考慮する。

  • サルコイドーシスなどの肉芽腫性病変を考慮する。悪性リンパ腫も原因となる。マクロファージ細胞によるビタミンDの過剰な活性化による。
  • 稀な鑑別疾患としてはウェゲナー肉芽腫症、猫ひっかき病、クローン病、慢性透析を伴う肝肉芽腫症、急性肉芽腫性肺炎、珪肺、リポイド肺炎、BCGがあげられる。(J Clin Endocrinol Metab 90:6316,2005)

6、甲状腺機能亢進症、副腎不全も高Ca血症をおこすことがある。

  • 甲状腺機能亢進症でも5~10%で骨回転の増加をともなったおおむね11mg/dl未満の軽度の高Ca血症を認めることがある。甲状腺機能亢進症では副甲状腺腺腫の発症頻度が増加することも指摘されている。
  • 副腎不全ではCa排泄の相対的な低下によって高Ca血症、高P血症となることがあるが、単独では起こりにくいので他の原因も調べる。

高カルシウム血症の治療

高Ca血症の基本的な治療法は腎でのCa排泄増加、骨吸収抑制、腸管での吸収減少をはかることである。その後疾患応じた原因療法を行う。

 

《対症療法》_血中Ca濃度を迅速に下げる方法

  • 無症状かつ軽度の上昇の場合(<11mg/dl)は原因療法のみを行ってよい。まず、脱水の補正とCa排泄促進のため生理食塩水点滴静注(100~200ml/h:1日2~3リットル)、脱水補正後にループ利尿薬静注(4~6時間ごと、200~250ml/hの尿量を維持する)
  • 腎障害を合併し高Ca血症が高度(≧17mg/dl)の場合は血液透析が必要になる。
  • 高Ca血症が中等度以上(≧12mg/dl)の場合は骨吸収抑制薬が必要である。急性期にはカルシトニンとビスホスフォネートを用いる。
  • カルシトニンは効果発現が数時間以内と早いが血清Caを1~2mg/ml低下する程度の効果しかなく繰り返し使用することによって効果が減弱する。1回40単位1日2回筋注する。健康保険上は骨粗鬆症における疼痛で週1回の筋注が認められるのみである。
  • ビスフォスフォネートは効果発現まで48~72時間と遅いが7~14日持続する。パミドロネート(アレディア)は初回30mgを投与する。2週間は間隔を開け効果がなければ60~90mgまで増量する。腎毒性があるので腎障害が高度の場合は使いにくいが高Ca血症による腎障害の場合は高Ca血症の是正により腎機能が改善することもある。他に使用可能なビスホスフォネートはインカドロネート(ビスフォナール)、アレンドロネート(テイロック、オンクラスト)、ゾレドロネート(ゾメタ)がありゾレドロネートが最も強力である。
  • 副腎皮質ステロイドはビタミンD過剰、肉芽腫性疾患、悪性腫瘍にともなう高Ca血症では有効である。ビタミンD過剰、サルコードーシスなどの肉芽腫性疾患ではプレドニン換算で20~30mg、悪性腫瘍に伴うものは1mg/kg投与する。

 

《原因治療》

  • pHPTの場合は副甲状腺摘除が基本となる。無症候性の場合も著明な骨量増加と尿路結石の再発防止が期待できるので積極的に行う場合がある。2002年のNIHガイドラインでは以下のいずれかに該当すれば手術を考慮する。
  1. 血中Ca濃度が正常上限より1.0mg/dlの上昇
  2. クレアチニンクリアランス30%以上低下
  3. 尿Ca排泄400mg/日以上
  4. 骨密度のTスコア<-2.5SD(腰椎、大腿骨、前腕のいずれか)
  • pHPTの保存的治療にシナカルセト(レグパラ®)が使用されることがある。副作用に吐気がある。
  • 悪性腫瘍では腫瘍の治療となるが進行癌から末期癌での合併が多いため難しい。
  • FHHは軽度で無症状が多いので治療が必要ないことが多いとされるが、一部の症例では骨量減少や意識障害などの症状が報告されているため必ずしも無治療でよいわけでない。しかし副甲状腺亜全摘は無効で副甲状腺機能低下症となる。また利尿薬、ビスホスフォネート、リン、エストロゲンなどが試みられたが無効である。カルシウム受容体作動薬は有効な可能性がある。