不明熱診療

  • 新型コロナウイルス感染症増加に伴い、典型的な症状を示さない新型コロナウイルス感染症も同時に増えてきました。
  • 市川浦安地域の取り決めで、コロナウイルス感染症が疑われても、軽症の場合は一次医療機関であるクリニック等で診療を行い、酸素吸入が必要などの中等症以上の方のみ、当院を含む病院で診断と検査を行うことが決まりました。
  • これまで不明外来を受診された方の多くは、微熱で状態が安定しており緊急性のない方ですが、今後はこの中に上記の病院受診の基準に満たないコロナウイルス感染症が多く含まれることが予想されます。
  • そこで、今後お引き受けする不明熱は原則以下の基準を設定することにいたしましたので、ご理解とご協力をお願いいたします。

 

    ①発熱が2週間以上持続。

    ③単純レントゲンで肺炎像がない

 

  •  この基準に合致しない方のご紹介を希望される場合は、直接、地域医療連携室までお問い合わせください。もしくは、下記の”不明熱外来診療情報提供書”を地域連携室までFAXしてください。ご検討させていただき回答いたします。

不明熱外来診療情報提供書(不明熱チェックシート)

  • また緊急の場合は地域医療連携室または狩野俊和(かのうとしかず:リウマチ膠原病科長)までお電話でご相談ください。

原因不明熱とは?

  • 38.3℃を超える発熱が3週間を超えて持続し、1週間の入院精査で原因がわからない発熱100例を集めて不明熱としてPetersdorfらは1961年に報告し、感染症、悪性腫瘍、膠原病を3大原因としました。
  • その後の医療環境の変化を反映して1991年に3回の外来診療または3日間の入院診療で原因不明のものを古典的不明熱と再定義し、さらに表に示すようなカテゴリーへ分類しました。
  • 不明熱を診断・管理するためには、必要な情報を病歴と身体所見からとりに行く姿勢と、重症度や切迫度に応じた検査の選択と経験的加療を含めた治療計画が重要になります。

【表1】不明熱の種類

不明熱の種類 定義 主な原因
 古典的不明熱

体温>38.3℃。

3週間以上持続。

3日間の入院精査、もしくは3回の外来検査で診断がつかない

悪性腫瘍

感染症

自己免疫疾患

院内

体温>38.3℃。3日間以上持続。

入院後24時間以上経過してからの発熱

3日間の精査で診断がつかない。

48時間の培養検査陰性。

医療関連感染

術後合併症

薬剤

好中球減少

体温>38.3℃。3日間以上持続。

好中球<500/μl

3日間の精査で診断がつかない。

48時間の培養検査陰性。

細菌

真菌(アスペルギルスなど)

ウイルス(ヘルペスなど)

HIV関連

体温>38.3℃。外来で4週以上、入院で3日以上。

3日間の精査で診断がつかない。

48時間の培養検査陰性。

HIV、抗酸菌、サイトメガロウイルス

トキソプラスマ、クリプトコッカス、免疫再構築症候群

 

再発性

間欠的な発熱

家族性地中海熱、成人スティル病

ベーチェット病、結節性多発動脈炎

なぜ不明熱になるか?

原因がわかりにくい発熱をみるのはどんな場合でしょうか?

以下のような状況にわけられると考えています。

 

1. 血管(内)に炎症のフォーカスがある。

2. 薬剤熱

3. 症状の出にくい臓器にフォーカスがある

4. 間歇的な発熱

5. 疼痛を本人が訴えない。

6. 特異的とはいえない症状が(複数)ある。

7. フォーカスが存在しない


  • 血管(内)に炎症のフォーカスがある

 血管壁もしくは血管内に炎症のフォーカスがある場合は臓器特異的な症状に乏しいことが多い。しかも緊急性が高く最初に鑑別すべき疾患群である。

 画像診断はルーチンの全身CTなどでは検出できず、疾患特異的な画像検査(大血管炎での造影MRIや粘液腫や心内膜炎に対する心臓超音波検査)でしか有意な所見を得られない。

 画像以外の検査も疾患名を意識した検査を行わないと診断に迫れない。

 血管内の病原体を検出する(血液培養→敗血症、感染性心内膜炎)、末梢につまった腫瘍細胞を検出する(ランダム皮膚生検→血管内リンパ腫)、特異的な抗体検査(ANCA→血管炎)、大血管の評価(側頭動脈エコー→側頭動脈炎、大動脈造影MRI→大動脈炎症候群)などを行う。

  • 薬剤熱

 薬剤熱は不明熱の原因になりしかも頻度が高い。肝障害などを伴えば想起しやすいが必ず伴うとも限らない。

 1つでも薬剤やサプリメントを使用している患者では必ず疑わなければならない。

 重症感染症など緊急性の高い疾患が疑われて診断と治療を同時に行わなければならない場合以外は、まず最初に可能な限りの薬剤中止を行う。

 アレルギー疾患や薬剤アレルギーの既往を認めないことや、好酸球増多がないことは薬剤熱否定の材料にはならない。

 投与から発熱までの期間は数日から3週間程度が多いものの、数年後に生じることもあれば、過去の曝露で感作されている場合は数時間で発症することもある。

 比較的徐脈は薬剤熱を疑うきっかけになるが、認めないことも多い。

 どんな検査をするよりも薬剤中止をするのがもっとも重要である。72-96時間でほとんど解熱する。但し半減期の長い薬剤や薬剤過敏性症候群(Drug induced hypersensitivity syndrome(DIHS)では薬剤中止後にも長引くことがある。

 薬剤熱を起こしやすい薬剤やDIHSの原因となる薬剤は知っておくべきで、優先的に中止する薬剤の候補になる。

 再投与によるチャレンジテストは診断をより確実にする。多くは安全に行えるものの、以前より強い反応を生じる可能性もあるので、薬剤の必要性とリスクをみて決める。DIHSなど重症薬疹を伴うようなものは当然禁忌となる。

 

【表2】薬剤熱の原因となることが多い医薬品
 抗菌薬  ペニシリン系抗菌薬、セフェム系抗菌薬、サルファ剤、ミノサイクリン、リファンピシン、ストレプトマイシン、アンホテリシンB
抗けいれん薬 フェニトイン、スルホンアミド、フェノバルビタール、カルバマゼピン
解熱鎮痛薬 スルピリン、メフェナム酸
循環器系薬 プロカインアミド、キニジン、αメチルドーパ、サイアザイド系利尿薬、硫酸アトロピン
抗悪性腫瘍薬 L一アスパラギナーゼ、ブレオマイシン)その他(インターフェロン、アロプリノール、抗ヒスタミン薬
【表3】DIHSの原因となる薬剤
 カルバマゼピン、フェニトイン、フェノバルビタール、ゾニサミド、ジアフェニルスルホン、サラゾスルファピリジン、アロプリノール、ミノサイクリン、メキシレチン
  • 症状の出にくい臓器にフォーカスがある。

 比較的症状の出にくい臓器の膿瘍や深部膿瘍での膿瘍などの炎症や腫瘍は理学所見やルーチン検査ではとらえられない。

 但し、画像検査の進歩でかなりの部分はCTやMRIで検出できるようになった。FDG-PETもフォーカスが限局している場合は非常に有用である。但し、腸管の炎症は検出できない(偽陰性になりうる)こともあるので、内視鏡検査も積極的に行う必要がある。

 肝膿瘍、脾膿瘍、Crohn病、深部膿瘍、腎細胞癌などの固形癌、骨盤内膿瘍、腹腔内膿瘍、膿胸、前立腺炎、クリプトコッカス症などが代表例である。

 

  • 間歇的な発熱

 間歇的な発熱には原因は常に存在するものの症状が出現、消退を繰り返すものとトリガーとなる刺激が生じたときのみ発熱を生じる場合がある。特に後者の診断は困難でたまたま行った検査で診断がつくことは稀である。"知らない病気は診断できない”ことを実感する。

 家族性地中海熱はこの代表的な疾患である。日本全国津津浦浦に患者は存在している。“家族性”がなくても“地中海”と関係なくても起こり得る。

 1度経験すれば、発熱患者の周期性は必ず確認するようになるが、一度も見たことがない場合はなかなか鑑別に挙げられないかもしれない。

 間欠的な発熱患者で鑑別すべき疾患を列挙する。

 

【表4】間欠的な不明熱の鑑別疾患

薬剤熱、詐熱、習慣性高体温症(以上が高頻度の3疾患)

過敏性肺臓炎、金属蒸気熱、肺梗塞、

自己炎症症候群(家族性地中海熱、高IgD症候群、クリオピリン関連周期熱症候群、TRAPS)

リンパ組織球障害(Castleman病、菊池病、リンパ節の炎症性偽腫瘍、Erdheim-Chester disease、Rosai-Dorfman disease)

LGL症候群、マクロファージ活性化症候群、周期性好中球減少症、周期性発熱―アフタ口内炎―咽頭炎―リンパ節炎症候群(PFAPA)、肥満細胞症、痛風、偽痛風、溶血性貧血、アジソン病、動脈腸管瘻、ビール酵母摂取、コレステロール塞栓、慢性疲労症候群、クローン病、ファブリ病、ゴーシェ病、視床下部性下垂体機能低下症、高トリグリセライド血症、Idiopathic granulomatosis、Klippel-Tre-naunay 症候群、ミルクタンパクアレルギー、変温症、ポリマー蒸気熱、ラトケ嚢胞、痙攣

Infect Dis Clin North Am. 2007;21:1189-211より改変引用》

 

  • 疼痛を本人が訴えない

 一般に疼痛の感じ方は個人差が大きく、軽微な刺激で疼痛を強く訴えることもあれば、強い炎症があっても疼痛を訴えないこともある。

 大動脈解離などは通常は耐え難い痛みがあるはずだが、軽度な疼痛を訴のみで、発熱が主訴で来院した症例もある。

 自覚症状は大事だが当てにし過ぎてもいけない。特に高齢者や十分に症状を表現できない小児では注意を要する。リウマチ性多発筋痛症は本人が痛みを訴えない場合は、発熱と炎症反応のみの不明熱となり、しかも稀でない。

 代表的な鑑別疾患はリウマチ性多発筋痛症、肛門周囲膿瘍、副鼻腔炎、亜急性甲状腺炎、急性胆管炎、腸腰筋膿瘍、化膿性関節炎、結晶誘発性関節炎、骨髄炎、肺塞栓、大動脈瘤破裂、血腫など

 

  • 発熱以外の症状に特異性を欠く

 頭痛、関節痛、筋肉痛、肝障害、リンパ節腫脹など軽度の症状があるものの他疾患でも頻繁にみるような症状の場合は診断につながりにくい。実際にはこれが一番多い状況かもしれない。

 比較的特異的と考えられる症状に的を絞り、その症状の鑑別診断リストをみながら丁寧に診断を行う。 

 診断基準がある疾患であっても成人スチル病やBehcet病などは除外基準が設けられており、膨大な疾患を除外しなければ診断できないため、安易な適用は誤診の元になる。

 成人Still病、Behcet病、PFAPA、サルコイドーシス、トキシックショック症候群、全身性エリテマトーデス、マラリア、伝染性単核球症、HIV感染、Closteridium difficile感染症、反応性関節炎、骨髄異形成症候群、菊池病などはこの状況に当てはまりやすい。

  •  フォーカスが存在しない。

 

 全くヒントとなるフォーカスが問診、理学所見、画像診断で得られない場合もある。上記の原因が否定された時に考慮に入れる疾患と考える。

 甲状腺クリーゼ、詐熱、副腎不全などが代表的。