酸塩基平衡と血液ガスの見かた


体内のpH調節とアシドーシス、アルカローシス

  • 体内で発生する酸の大部分は二酸化炭素として呼気中に排泄される。蛋白質の代謝から生じる不揮発酸は約1mmol/kgでこれは腎からの排泄が必要となる。
  • 発生した酸は重炭酸やヘモグロビン、細胞内蛋白により一時的に消費(緩衝作用)されるのでpHの変動は抑えられる。
  • 腎では近位尿細管でのHCO3-の再吸収と皮質集合管でのHCO3-の産生により不揮発酸が排泄される。皮質集合管でのHCO3-の産生はH+がリン酸塩、アンモニアと結合し排泄されることにより産生される。アンモニアは酸増加(アシドーシス)時の排泄機構として重要で、近位尿細管で産生されるが最大10倍にも増大することが出来る。
  • 腎における酸排泄増加に影響を与える因子は細胞外液pH低下、脱水、低K血症である。
排泄↑ 細胞外液pH低下、脱水、低K血症
排泄↓ 細胞外液pH 上昇、溢水、高K血症
  • 血漿pHの正常値は7.40±0.05である。pH<7.35を酸血症(Acidemia)といいpH>7.45をアルカリ血症(Alkalemia)という。
  • Acidemiaにしようとする働きをアシドーシスという。HCO3-を減少させる働き(代謝性アシドーシス)とCO2を増加させる働き(呼吸性アシドーシス)に分けられる。
  • 代謝性アシドーシスは体内の酸発生か腎での酸排泄障害によりHCO3-が減少することにより起こる。呼吸性アシドーシスは肺換気が減少しCO2が蓄積することによって起こる。
  • Alkalemiaにしようとする働きをアルカローシスという。HCO3-を増やす働き(代謝性アルカローシス)かCO2を減少させる働き(呼吸性アルカローシス)に分類される。
  • 代謝性アルカローシスは酸の喪失やアルカリの投与、または腎でのHCO3-再吸収増加によって引き起こされる。呼吸性アルカローシスは肺換気が増加しCO2が減少することによって起こる。 

血液ガスのよみかた

以下の5つのステップに従って解析する

 Step1)Acidemiaか?Alkalemiaか?

 Step2) 呼吸性の変化か?代謝性の変化か?

 Step3) 代償性変化(pHを正常に戻す働き)は妥当な範囲か?

 Step4) Anion Gap(AG)の開大はあるか?AG開大があるときは補正HCO3-は?

 Step5)アシドーシス、アルカローシスの原因は実際に存在するか?


Step1)Acidemiaか?Alkalemiaか?

  • 動脈血でみるのが基本であるが、pH、[HCO3- ]などは静脈血でもほぼ代用できる。アシドーシスのときほど両者の値は近いといわれる。
  • 経時的変化を見るときには頻回の採血を必要とするので静脈血での評価は特に有用である。
  • 静脈血のHCO3-イオンは動脈血よりも2-3mEq/l程度高値になる。同様にPCO2も高くなる。AGはHCO3-増加分だけ塩素イオンが赤血球内に移動するため(クロライドシフト)変化しない

動脈血液ガスの標準値

pH     7.40±0.05

PaO2    80100  mmHg

PaCO2    40±5      mmHg

HCO3-    2426   mEq/l

動脈血-静脈血平均(95%CI)

pH       0.036(0.0300.042)

HCO3 1.5mEq/l(1.31.7)

PCO2   6.0mmHg(5.07.0)


  • 代償性変化が正常であればpHはほぼ7.2~7.6の範囲に保たれる。pHが高度な異常(pH<7.2またはpH>7.6)の時には混合性(2つ以上)酸塩基平衡障害が疑われる。

Step2) 呼吸性か?代謝性か?

  • 一次性のアシドーシス/アルカローシスに対してpHを戻すための代償機能が働く。代償性変化が予測範囲外の時は混合性(2つ以上)のアシドーシス/アルカローシスの存在を疑う。
  • 代償機能が働いたとしても単純性酸塩基調節障害では、アシドーシスでpH7.35、アルカローシスでpH7.45と完全には戻らない。しかし慢性呼吸性アルカローシスではpH7.40まで戻りうる。
  • 代償が完成するまでの時間は呼吸性代償で12~24時間、腎性で数日を要する。
  • 代謝性アシドーシス、代謝性アルカローシスの場合、呼吸性の代償が適切に行われているときは、PCO2≒HCO3-+15が成り立つ。(注意:呼吸性の時には成り立たない)

病態

一次変化

代償

代償の範囲

限界値

代謝性アシドーシス

[HCO3-]

pCO2 

pCO21.2×⊿[HCO3-]±5

 

pCO2=1015mmHg

代謝性アルカローシス

[HCO3-]

pCO2 

pCO20.7×⊿[HCO3-]±5

pCO2=60mmHg

呼吸性アシドーシス

pCO2 

[HCO3-]

急性期(~4日)

[HCO3-]0.1×⊿pCO2±3

[HCO3-]=30mmHg

慢性期(5日~)

[HCO3-]0.4×⊿pCO2±4

[HCO3-]=42mmHg

呼吸性アルカローシス

pCO2 

[HCO3-]

急性期(~4日)

[HCO3-]0.1×⊿pCO2±3

[HCO3-]=18mmHg

慢性期(5日~)

[HCO3-]0.20.5×⊿pCO2

[HCO3-]=12mmHg

Step4) アニオンギャップ(AG)を計算する。AG上昇の時は補正[HCO3-]濃度も計算する。

●AG = Na-(Cl+HCO3-):(正常値12±2)

 

●補正[HCO3-]=実測[HCO3-]+⊿AG:(正常値24~26)

[⊿AG= AG-12 (12=AGの正常値)]  
  • 代謝性アシドーシスを認めないときにもAGは必ず計算する。AG増大は不揮発酸(乳酸、ケトン体、リン酸、アルコールなど)の蓄積を意味する。
  • 補正HCO3-濃度はAGを上昇させるアシドーシスの原因がなかったと仮定したときの血清[HCO3-]をあらわす。
  • ⊿AGは蓄積した不揮発酸量に相当するため⊿AGと実測[HCO3-]との和は不揮発酸が存在しなかった場合の[HCO3-]である。補正HCO3-濃度の異常は他のアシドーシス/アルカローシスの合併を意味する。

補正AG=測定AG+2.5(4.4-Alb)

  • 代謝性アシドーシスを認めないときにもAGは必ず計算する。AG増大は不揮発酸(乳酸、ケトン体、リン酸、アルコールなど)の蓄積を意味する。
  • 補正HCO3-濃度はAGを上昇させるアシドーシスの原因がなかったと仮定したときの血清[HCO3-]をあらわす。
  • ⊿AGは蓄積した不揮発酸量に相当するため⊿AGと実測[HCO3-]との和は不揮発酸が存在しなかった場合の[HCO3-]である。補正HCO3-濃度の異常は他のアシドーシス/アルカローシスの合併を意味する。

Step5)アシドーシス/アルカローシスの原因が実際にあるか

  • ここからは臨床状況とデータを総動員して原因を探る。