水バランスと浸透圧の調節


ヒトの水分布

  • 成人男性の体液量は体重の60%(小児は70%、高齢者は50%)
  • 60%のうち細胞内:細胞外組織:血管=40%:15%:5%に分布

細胞内環境と細胞外環境

  • 細胞内液と細胞外液は細胞膜で区切られている。細胞膜は半透膜であり、浸透圧によって水の出入りを調節している。
  • 細胞内はNa-Kチャンネル、K-Hチャンネルにより、Na↓、K↑、完全に中性になるように保たれている。

血漿浸透圧と浸透圧の調節

  • 血漿中の主な浸透圧物質(分子数の多いもの)は電解質でNa(140mEq/l)、K(5mEq/l)、Cl(100mEq/l)などの電解質であるが、陽イオンはほとんどがNaでそれに見合う陰イオンがあると考えられる。2×Naが電解質による浸透圧を近似
  • 次に多いブドウ糖分子は分子量が180なのでmg/dlをmmol/lに換算するとブドウ糖濃度(mg/dl)/18が浸透圧。
  • さらにBUNも同様に計算するとBUN(mg/dl)/2.8が浸透圧になる。

以上より血漿浸透圧の推測式は

 

血漿浸透圧=2×Na+血糖値/18+BUN/2.8

  • 実測の血漿浸透圧はNa、血糖、BUN以外の浸透圧物質が含まれるときに上昇することがある。(浸透圧ギャップ

《浸透圧ギャップを生じる物質》

 生体内発生  ケトン体(ケトアシドーシス)、腎不全(リン酸、硫酸)、乳酸アシドーシス(乳酸)
 外因性物質  エタノール、メタノール、エチレングリコール、マンニトール、グリセオール、ソルビトール
  • 浸透圧が高くなるとADHを分泌して、集合管に作用し、水を再吸収する。
  • ADH分泌理論値の計算(浸透圧との関係から分泌されているはずのADH値)

[ADH(pg/ml)]=0.38×(血漿浸透圧-280)

血漿浸透圧によるADH分泌調節

  • ADHは血漿浸透圧280mOsm/kgH2O以下では分泌は0になる。
  • 280を超えるとADHは直線的に増加する。
  • 通常血漿浸透圧は285~290mmol/kgで血漿ADH値は0.5~2.0pg/mlである。
  • 血漿浸透圧の変化に対するADH分泌は極めて敏感で、1mmol/kgの増減に対応できる能力を持っている。
  • 血漿浸透圧>280となり、ADHが分泌されると、集合管での水の再吸収が促進され尿浸透圧も直線的に上昇する。
  • 血漿浸透圧>290になると、再吸収の限界(尿浸透圧>1200)に近づく。
  • 再吸収の亢進では間に合わなくなるので口渇中枢が刺激されて飲水が行われるようになる。
  • ADH分泌による集合管での水再吸収と、口渇刺激による飲水で血漿浸透圧は280~290の間で保たれている。

尿浸透圧と尿比重の関係

  • 尿比重が0.01上昇すると尿浸透圧は350mOsm/l増加
  • 但し比重に影響する糖、造影剤、マンにトールなどの物質がないことが前提

 

 

 

尿比重 尿浸透圧
 1.010  350mOsm/l
1.020 700mOsm/l
1.030 1050mOsm/l

ADH分泌予測値

  • ADH分泌予測値(実際に分泌されていると推測される値)≒実測値

[ADH(pg/ml)]=1.7×(尿浸透圧/血漿浸透圧)

 

  • ”ADH分泌期待値”と”ADH分泌予測値”が異なるのは、血漿浸透圧以外のADH分泌刺激が存在しているからである。(参照:低ナトリウム血症)
  • 血漿浸透圧以外で最も重要な刺激となるのは血液量の減少であり,これは左心房,肺静脈,頸静脈洞,および大動脈弓の圧受容体によって感知されてから迷走神経と舌咽神経を介して中枢神経系に伝達される。
  • その他にADH分泌刺激となるのは疼痛,ストレス,嘔吐,低酸素症,運動,低血糖,コリン作動性物質,β遮断薬,アンジオテンシン,およびプロスタグランジンがある。
  • 逆にADH放出抑制物質には,アルコール,α遮断薬,およびグルココルチコイドがある。