代謝性アルカローシス

  • 代謝性アルカローシスは即ち血清HCO3-濃度の上昇を意味する。[HCO3-]>27mEq/lとなる。
  • 代謝性アルカローシスでは、筋痙攣、筋力低下、不整脈、てんかん発作などが起きうる。これはpH上昇に伴うイオン化カルシウムの減少が原因である。
  • これらの症状が利尿薬使用時や嘔吐時に認められるときは代謝性アルカローシスを考慮する。
  • 何らかの原因でアルカローシスが引き起こされても通常は呼吸性、または腎性に代償されアルカリ血症にはならない。
  • 代謝性アルカローシスにはアルカローシスを持続させるために腎臓でのHCO3-再吸収を増加させる原因が必要である。動脈血流量の減少、アルドステロン上昇、Cl-の欠乏、カリウム欠乏、高炭酸ガス血症などがある。
  • 体液量の減少はNaClの欠乏(即ちCl-の欠乏)、血流量減少、レニン-アンギオテンシン-アルドステロン系の活性化を引き起こすので最も重要なアルカローシスの持続因子となる。
  • 重篤なアルカローシスの場合にAGの上昇が見られることがある。pHの上昇に伴い陰性荷電のアルブミンが増加するためである。

代謝性アルカローシスの鑑別

  • 代謝性アルカローシスの鑑別はまず尿中クロライド濃度によりクロライド反応性代謝性アルカローシスとクロライド抵抗性代謝性アルカローシスに分類する。
  • 尿中クロライド濃度は循環血漿量を反映する。通常循環血漿量は尿中[Na]やFENaでみることが多い。しかし、代謝性アルカローシス時には尿中[HCO3-]の増加が原因で尿[Na]/FENaは循環血液量と関係なく増加する。従って尿中[HCO3-]に影響されない尿[Cl-]が有用となる。

クロライド反応性代謝性アルカローシス

  • 尿[Cl-]<20mEq/lをクロライド反応性代謝性アルカローシスと呼び、補液や循環動態の改善でアルカローシスが改善する。利尿薬投与、高炭酸ガス血症の急速な改善時、非吸収性陰イオンの増加などによる腎や消化管からの体液喪失、外因性アルカリ過剰投与が原因となる。
  • 利尿薬投与による代謝性アルカローシスはループ利尿薬でもサイアザイド利尿薬でも起こりうる。利尿薬が効いているときは尿[Cl-]は増加するが、効果が消える投与後24~48時間後には尿[Cl-]は低下する。代謝性アルカローシスに低K血症を伴うとき、または神経性食思不振症患者で代謝性アルカローシスを見たときは原因が利尿薬である可能性が高い。
  • 高炭酸ガス血症患者で呼吸管理が行われ炭酸ガス濃度が急速に回復したときは腎臓での代償が間に合わず3~5日間代謝性アルカローシスになることがある。
  • ペニシリンなどのβラクタム抗菌薬を大量投与することにより非吸収性陰イオンが多く含まれている。これらが腎臓から排泄されるときH+やK+の排泄も同時に行われているので低K性代謝性アルカローシスが起きる。
  • アルカリ過剰負荷はクエン酸塩や酢酸塩など代謝によりHCO3-を生じる薬剤が投与されることにより起こる。大量輸血ではクエン酸が負荷される。ミルク・アルカリ症候群は腎性骨異栄養症に伴う炭酸カルシウムの慢性的な過剰摂取によってしばしば引き起こされる。所見としては高カルシウム血症,腎石灰沈着,腎不全,および代謝性アルカローシスが認められる。この状態の代謝性アルカローシスは腎不全に伴うHCO3-排泄障害も一因となる。

クロライド抵抗性代謝性アシドーシス

 

  • 尿[Cl-]>20mEq/lはクロライド抵抗性代謝性アルカローシスで補液によるアルカローシス改善はみられない。高血圧の有無で2つに分類される。

高血圧を伴う場合

  • 原発性アルドステロン症、悪性高血圧、レニン産生腫瘍、先天性副腎皮質過形成、Ⅱ型11β水酸化酵素欠損(偽性ミネラルコルチコイド過剰症候群:the syndrome of apparent mineralcorticoid excess=AME)、クッシング症候群、腎動脈狭窄、Liddle症候群、甘草を含む薬剤摂取が原因となる。
  • これらの鑑別には血中アルドステロン濃度(plasma aldosterone concentration:PAC,単位 ng/ml )、血漿レニン活性(plasma renin activatiy:PRA、単位ng/ml/hr)が有効である。午前中に30分以上安静臥床してから採血する。利尿薬、アルドステロン拮抗薬は6週間以上、β遮断薬は2週間以上前に中止してから行う。
  • PAC上昇、PRA上昇の場合は腎動脈狭窄、悪性高血圧、レニン産生腫瘍、エストロゲン投与が鑑別に挙がる。腎動脈狭窄は高齢者の動脈硬化がみられる患者に多くみられる。高血圧を伴う代謝性アルカローシスの主要な原因である。
  • PAC上昇、PRA低下の場合は原発性アルドステロン症を疑う。原発性アルドステロン症は高血圧の5-20%を占めるとされ、まれな疾患ではない。特に以下の場合は積極的に疑う。血圧160/100mmHg以上、治療抵抗性高血圧、低カリウム血症、副腎腫瘍を持つ高血圧、40歳以下の脳卒中の既往のある高血圧、一等親の中に本疾患を発症した家族歴のある高血圧を持つ場合である。低K血症はしばしば注目される検査異常であるが本邦では患者の18%にしか合併しないためスクリーニングの指標としては不向きである。PACとPRAの比である(aldosterone-renin ratio:ARR)測定を行う。ARR>200かつPAC>12~15ng/mlであれば原発性アルドステロン症の可能性が高い。PAC/PRAの両者の低下を認める場合はアルドステロン様効果をあらわす物質が存在する場合に見られる。Cushing症候群、甘草/仁丹、AME、Liddle症候群、先天性副腎皮質過形成を鑑別する。

高血圧を伴わない場合

  • Bartter症候群、Gitelman症候群、利尿薬投与中、高Ca血症、飢餓後、大量のK欠乏、肝硬変、うっ血性心不全が原因である。
  • K<2.0mEq/lの高度なカリウム欠乏で代謝性アルカローシスを合併することがある。
  • サルコイドーシスや悪性腫瘍に伴う高Ca血症ではPTH産生抑制により腎でのHCO3-の再吸収が促進することによって代謝性アルカローシス起こるのではないかと推測されている。
  • 長時間の絶食後、炭水化物を摂取すると数週間にわたり代謝性アルカローシスになることがある。細胞外液量減少による腎臓でのNa再吸収増加が代謝性アルカローシス維持に影響を与えると考えられている。