2015ACRガイドライン

  • 例外的な症例でなく、日常遭遇する臨床シナリオに焦点を当てている。
  • これらの推奨にはコストを考慮しているが、費用対効果の分析は行っていない。
  • 疾患活動性評価はACRが推奨する方法を用いるべきである。
  • 機能的評価は標準化され、かつ有用な方法を用いて行う。少なくとも1年に1回。活動性がある場合はより頻回に行う。
  • 低疾患活動性または寛解を達成した場合、治療法の変更は患者との相談の上で治療者が行うべきである。保険者などの方針による変更は推奨されない。
  • ある治療が別の治療より推奨されるということは、第一選択になりうるという意味で、別の治療が推奨されないという意味でない

用語の定義


成人リウマチ患者
18歳以上のACR分類基準(1987年基準または2010年基準)を満たす患者
 早期関節リウマチ  症状発現から6週未満の患者

診断確定リウマチ

(Established RA)

6か月以上症状が持続、または、1987ACR基準を満たすもの
疾患活動性 低疾患活動性、中等度疾患活動性、高疾患活動性に分類(Table2)
寛解(remission)

疼痛関節痛、腫脹関節数、CRP、患者VAS(1-10)のいずれも1以下(Boolean寛解)

ACRが推奨する6つの評価法のいずれかで寛解(PAS、PAS2、RAPID3,CDAI,SDAI,DAS28)

DMARDs

(疾患修飾性抗リウマチ薬)

Methotrexate(MTX)、Hydroxychloroquine(HCQ)、Leflunomide(LEF)、Sulfasalazine(SSZ)

(Azathioprine、Cyclosporine,Minocycline,金製剤、Tofacitinibは含まない)

DMARD単剤治療

MTXによるものを基本とする。SSZ、HCQ、LEFによるものを含む。

DMARDs2剤併用

MTX+SSZ、MTX+HCQ、SSZ+HCQ、またはLEFとの併用

DMARD3剤併用

MTX+SSZ+HCQ

生物製剤

TNF阻害薬、非TNF阻害薬

TNF阻害薬

Adalimumab(ヒュミラ ®)、Certolizumab pegol(シムジア ®)、etanercept(エンブレル ®)、golimumab(シンポニ― ®)、infliximab(レミケード ®)

非TNF阻害薬

Abatacept(オレンシア ®)、rituximab(リツキサン ®)、Tocilizumab(アクテムラ ®)

(anakinraは除く)

低用量ステロイド

PSL換算10㎎/日以下

高用量ステロイド

PSL換算10-60㎎/日

短期ステロイド

3か月未満


関節リウマチの評価

早期リウマチ患者に対する推奨

【まとめ】

  1. DMARDs(MTX)単独治療
  2. DMARD併用、TNF阻害薬、非TNF阻害薬をなるべくMTXと共に使う。
  3. Tofacitinibは安全性データが不十分で優先順位が下がる。
  4. 病勢悪化時の短期少量ステロイド投与は利益がリスクを上回る。
  recommendation Level of Evidence
1   疾患活動性に関わらず treat to target(T2T)※1)を用いる。  Low
2 未治療で疾患活動性が低い場合は、DMARD単剤治療(MTX中心)を2剤併用療法、3剤併用療法より優先して行う※2) Low
3 未治療で疾患活動性が中等度~高度の場合には、DMARD単剤療法を2剤併用、3剤併用先して行う※3)

Low(2剤)

Low(3剤)

4 DMARD単剤(±ステロイド)で疾患活動性が中等度~高度の場合、DMARDs併用療法、TNF阻害薬、非TNF阻害薬に変更する。いずれもMTX併用を考慮する※4) Low
5

DMARDsによる治療で疾患活動性が中等度~高度の場合、

(a)TNF阻害薬単剤治療をTofacitinibib単剤治療に優先して行う。

(b)TNF阻害薬+MTXをTofacitinib+MTX治療に優先して行う。※5)

Low
6 DMARDsや生物製剤でも疾患活動性が中等度~高度の場合、低用量ステロイドを追加する。※6)

Moderate(DMARD)

Low(生物製剤)

7 疾患活動性が上昇しステロイドを使いする場合、可能な限り低用量かつ短期間投与に止める。※7) Very low
※1 T2Tとは目標達成に向けた治療という意味。症状コントロール、関節破壊抑制、身体機能の正常化、社会生活の回復について目標を設定し、その目標を目指した治療を行うことを指す。
 ※2  DMARD単独療法は主にMTXが使われる。併用療法が単独療法より有効である証拠は無く、コストやコンプライアンスの面からも単独療法が望ましい。
※3 効果についても副作用についても高いエビデンスがない。併用療法のメリットはわずかであり、3剤併用は、早期に労働が可能になるなど一部の患者にはメリットがあるかもしれない。
※4 薬剤選択は、費用や合併症、使いやすさや副作用を加味して決める。生物製剤は相乗効果が期待できるためMTXとの併用が望ましい
※5 Tofacitinibの使用経験が浅いため、TNF阻害薬を優先する。
※6 低用量かつ短期間のステロイド投与は利益が害を上回る。
※7 直接的に検証したデータはなくエビデンスは低い。

早期関節リウマチ治療のアルゴリズム


Established RAに対する推奨

【まとめ】

  1. DMARDs(MTX)単独治療
  2. DMARD併用、TNF阻害薬、非TNF阻害薬、TofacitinibをなるべくMTXと共に使う。
  3. TNF阻害薬と非TNF阻害薬は同列
  4. TNF阻害薬内での変更より、非TNF薬への変更がよい。
  5. Tofacitinibは安全性データが不十分で優先順位が下がる。
  6. 寛解達成後、治療のTaperingを試みてよいが、治療をすべては中止すべきでない。
recommendation level of evidence
1  疾患活動性に関わらずTreat to target(T2T)を用いるべきである。  Moderate
2 未治療で疾患活動性が低い場合は、MTXを中心としたDMARD単剤治療を行う。※1) Low
3 未治療で疾患活動性が中等度~高度の場合は、DMARD単剤治療をTofacitinib※2)やDMARDs併用療法※3)に優先して考慮する。 High to moderate
4 DMARD単独治療(±ステロイド)で疾患活動性が中等度以上持続する場合は、DMARDの併用療法、TNF阻害薬追加。非TNF薬やTOFAへの変更を行う。※4) Moderate to very low
5 TNF阻害薬による治療で、疾患活動性が中等度以上持続する場合はDMARD1剤または2剤を追加する。※5) High
6 1剤のTNF阻害薬での治療で、疾患活動性が中等度以上持続する場合は、非TNF薬(±MTX)が、他のTNF阻害薬/Tofacitinib(±MTX)への変更よりよい。※6) Low to very low
7 1剤の非TNF薬治療で、疾患活動性が中等度以上持続する場合は、他の非TNF薬(±MTX)の方が、Tofacitinib(±MTX)への変更よりよい。※7) very low
8 2剤以上のTNF阻害薬治療で、疾患活動性が中等度以上持続する場合は、非TNF薬(±MTX)の方が3剤目の抗TNF薬やTofacitinib(±MTX)への変更より望ましい。※8) very low
9

2剤以上のTNF阻害薬治療で、疾患活動性が中等度以上持続し、かつ非TNF薬が使用できない場合は、Tofacitinib(±MTX)への変更を行う。※9)

Low
10

各1剤以上のTNF阻害薬と非TNF薬治療で疾患活動性が中等度以上持続する場合、

a)最初に他の非TNF薬への変更がTofacitinib(±MTX)への変更より望ましい。

b)さらに活動性が持続する場合はTofacitinib(±MTX)への変更が、3剤目のTNF阻害薬への変更より望ましい。

Very low

Very low

11

DMARDs、TNF阻害薬、非TNF薬治療で、疾患活動性が中等度以上持続する場合は、短期間、低用量ステロイドを併用する。

High to moderate
12

上記でステロイド追加する場合は可能な限り短期間かつ低用量に止める。

High to moderate
13

寛解を達成した場合、※10)

a)DMARDs治療を漸減する。

b)TNF阻害薬、非TNF薬、Tofacitinibを漸減する

a)Low

b)Moderate to very low

14

低疾患活動性を達成した場合、

a)DMARDs治療を継続する

b)TNF阻害薬、非TNF薬、Tofacitinibを継続する。※11)

a)Moderate 

b)High to Very low

15

寛解を達成した場合でも、すべてのRA治療を中止することは推奨されない。※12)

Very low


※1 エビデンスは低いが、低コストで安全性が長期に確立しているためMTXを中心としたDMARDs単独治療が推奨される。
 ※2  TofacitinibはMTXと比較して、有効性はわずかに勝るものの長期の安全性データが乏しく、コストも高いため総合的にMTXが勝る。
※3 DMARD併用療法と単独療法との比較は、直接のデータがなく、副作用データも正確でない。
※4 エビデンスは低いが、経験や間接的データからはこれらの治療が有用であることを示している。生物製剤は相乗効果があるため、MTXとの併用が望ましい。
※5 生物製剤はDMARDs併用がより有効である。
※6 TNF阻害薬で治療された患者で、Rituximab有効であったエビデンスが存在する。またMTX/DMARDs治療患者のTocilizumabはTNF阻害薬より優れるとするデータがある。
※7 非TNF薬がTofacitinibよりも長期の安全性データや有効性データが存在する。また作用機序の異なる非TNF薬は試みる価値がある。
※8 非常に低いエビデンスのみしかない。特にTofacitinibは長期の安全性データがない。
※9 HAQで評価した場合、TofacitinibはTNF阻害薬と比較して優れた結果が得られたとする研究があるが、長期の安全性データがない。また患者の中には経口薬を望む場合もある。
※10

13,14,15は治療漸減(Tapering)に関するステートメントである。

・Taperingとは同じ薬剤を減量または投与間隔延長である。

・患者の価値観や好みも反映する。

・再燃の可能性を考慮し、活動性モニターを行う。

・Tapring開始前に患者に再燃リスクを説明する必要がある。

※11

強く推奨される。低疾患活動性が残る患者で、治療中止となるのはごく少数である。

※12

低いエビデンスしかないものの強く推奨される。治療を完全に中止した場合、再燃再治療のリスクは高い。



合併症がある患者の治療

鬱血性心不全がある患者

うっ血性心不全のあるestablished RA DMARDs併用、非TNF薬またはTofacitinibをTNF阻害薬より優先
 TNF阻害薬治療中に心不全が悪化  DMARDs併用、非TNF薬またはTofacitinibを他のTNF阻害薬への変更より優先

B型肝炎

活動性B型肝炎があり、有効な抗ウイルス薬を投与 肝炎合併の無い場合と同じ

C型肝炎

C型肝炎があり、有効な抗ウイルス薬投与 肝炎合併の無い場合と同じ
C型肝炎があり、有効な抗ウイルス薬投与がないもしくは必要としない場合。 TNF阻害薬よりもDMARDsを優先する。

悪性腫瘍

皮膚腫瘍(悪性黒色腫を含む) DMARDsをTNF阻害薬やTofacitinibより優先する。
リンパ増殖性疾患の治療歴 RituximabをTNF阻害薬よりも優先する。
リンパ増殖性疾患の治療歴 DMARDs併用,abatacept、tocilizumabをTNF阻害薬より優先する。
固形癌 非癌患者と同じ

重症感染症

重症感染症の既往 DMARDs併用やabataceptをTNF阻害薬より優先する。

DMARD投与中の副作用モニタリング

DMARD投与中の血算、肝機能、腎機能フォローの間隔