腎機能評価


尿素窒素(BUN)とクレアチニン(Cr)

  • クレアチニン(Cr)と尿素窒素(BUN)は腎機能評価の目的で最も一般的に測定される検査項目である。測定が簡便で有用な指標ではあるが、CrやBUNの上昇は必ずしも腎機能の悪化を意味しない。
  • Crは糸球体でろ過され、再吸収されず、尿細管からの分泌もほとんどないため、血清Cr濃度やクレアチニンクリアランス(Creatinine Clearance:CCr)は糸球体濾過量(glomerular filtration rate:GFR)の指標とされている。
  • しかし実際には血清Cr濃度はGFR以外の要素にも影響を受けるため以下の要素を考慮した上で評価しなければならない。

血清Crを見るときの注意点

  • 腎疾患がある場合にはCrの尿細管分泌が増える。糸球体濾過量が減ってもクレアチニン濃度は上昇しにくくなる。
  • ある種の薬剤(トリメトプリム、シメチジン、スピロノラクトン、プロベネシド)の使用下では、クレアチニンの尿細管分泌が抑制され、GFRが低下しなくても血清Cr濃度は上昇しやすくなる。
  • 筋肉量が少ない場合や女性ではクレアチニン産生量が少ないため腎機能が低下しても血清Cr濃度は上昇しにくい。
  • クレアチニンは正常に近い値ではわずかな上昇が大きなGFR低下を意味する。

(例)60歳の男性で血清Crが0.6→1.0mg/dlの上昇時にはGFR100→60 ml/min/1.73m2まで低下。

  • 慢性腎不全では障害を受ける糸球体と正常な糸球体が混在している。一部の糸球体が障害を受けると残存する糸球体が肥大して濾過量を補う。Cr上昇が始まるときには、機能している糸球体が半分以下になっている。
  • 腎障害時にGFRが低下してから血清Cr値が上昇して定常状態になるには数日かかるため急性腎不全では血清Cr値はGFRを正確に反映できない。

クレアチニンクリアランス(CCr)

  • CCrは日常診療で腎機能評価によく使われている。特に腎機能に応じて薬物投与量を決める時にはGFRでなくCCrが使われてきた。

実測CCr(ml/min)={尿量(ml)×尿Cr(ml/dl)}÷{血清Cr(mg/dl)×蓄尿時間(min)}×1.73体表面積(m2)

で計算される。

  • 正常範囲ではCCr≒GFRだが、腎機能低下時にはCCr>GFRとなる。
  • これとは反対に尿素クリアランス(Curea:CCr計算式のCr(mg/dl)をUN(mg/dl)に置き換えたもの)は腎障害時にはCurea<GFRとなる。
  • そのため両者の平均がGFRに近似するという計算式がGFR<30 ml/min/1.73m2には使用される。

GFR=(CCr+Curea)÷2

  • CCrも推算式があり頻用されている。Cockcroft-Gault法による概算式を示す。

{(140-age)×体重(kg)}/{72×血清Cr(mg/dl)}、×0.85(女性の場合)

estimated GFR(推定糸球体濾過量:eGFR)

  • 日本人を対象としたGFR推算式が日本腎臓学会より提唱され広く利用されている。

   推定糸球体濾過量(eGFR(ml/min/1.73m2)=194×Cr-1.094×年齢-0.287(女性では0.739をかける)

 

  • この近似式は高度の腎障害時でも正確であることが分かっている。但し、小児(18歳以下)や妊婦、超高齢者、極端なやせや肥満、筋肉量が極端に多い場合は不正確になる。
  • また、血清アルブミン値、BUNを加えた5項目の式も作成されている。

eGFR=142×Cr-0.923×年齢-0.185×Alb0.414×BUN-0.233(女性では0.772をかける)

  • 欧米ではModification of Diet in Renal Disease Study(MDRD)法として以下の推算式があり、ヨーロッパ系米国人、アフリカ系米国人で正確であることが検証されている。(ann intern med 2006;145: 247)

eGFR(MDRD)=170×Cr-0.999×年齢-0.176×Alb0.318×BUN-0.170

(女性では0.762をかける。またアフリカ系米国人の場合1.18をかける)。

  •  BUN、Albを除いた簡便式は

eGFR=186×Cr-1.154×年齢-0.203(女性では0.742をかける。またアフリカ系米国人は1.21をかける)

尿素窒素(BUN)

  • BUNの上昇にはより多くの要素が影響する。
  • 腎血流低下時には尿細管流量も低下し、BUNの再吸収量が増えるためBUN上昇が起こる。
  • 食事などに含まれる蛋白負荷、異化亢進(感染、ステロイド)、消化管出血(血液が腸管から再吸収されBUNに変換)、テトラサイクリン系抗生剤投与(BUN産生増加)などでBUN上昇がみられる。
  • 逆に肝硬変や低蛋白食、栄養不良ではBUNは腎障害時にも上昇しにくくなる。