感染症と腎障害

  • MRSA、感染性心内膜炎、ヒトパルボウイルスB19、HIV、肝炎ウイルスなどによる腎症が知られている。
  • 病原体や毒素による免疫複合体産生により腎障害をきたすことが多い。

感染症

腎障害の原因

腎病理組織

B型肝炎

免疫複合体

膜性増殖性糸球体腎炎(成人)

メサンギウム増殖性糸球体腎炎(成人)

C型肝炎

クリオグロブリン、

免疫複合体

膜性増殖性糸球体腎炎

感染性心内膜炎

免疫複合体

管内増殖性糸球体腎炎

管外増殖性糸球体腎炎

MRSA腎炎

スーパー抗原(外毒素)による免疫複合体産生

管内増殖性糸球体腎炎

尿細管間質性腎炎

シャント腎炎

免疫複合体

膜性増殖性糸球体腎炎

深部膿瘍

クリオグロブリン

免疫複合体

管外増殖性糸球体腎炎

HIV腎症

 

虚脱性巣状分節性糸球体硬化症

メサンギウム増殖性腎炎

IgA腎症など様々

ヒトパルボウイルスB19

免疫複合体

管内増殖性糸球体腎炎

B型肝炎による腎障害

  • HBVの抗原が抗体と免疫複合体産生を引き起こして糸球体に沈着する。
  • 成人ではMPGN、メサンギウム増殖性腎炎、小児では膜性腎症が多いとされる。
  • 組織像に関係なくHBs抗原やHBc抗体陽性などHBVへの持続感染を認め、HBV関連抗原(HBe抗原、HBs抗原)がIgG、IgM、補体と同じパターンで糸球体へ沈着しているのが証明されればB型肝炎ウイルス腎症と診断する。
  • 無症状性キャリアであっても発症する。蛋白尿を契機に受診し無症状性キャリアであることが判明することも多い。
  • 治療はHBe抗原がseroconversionすれば腎症も軽快することから、IFN、ラミブジン、エンテカビル投与投与を検討する。
  • ただし、IFN、ラミブジンも腎障害を起こしうる薬剤であるので注意する。
  • ステロイドはウイルスの増殖を促進する可能性があるため使わないのが原則である。ARB/ACE-Iは腎機能の保護も期待できるため積極的に投与する。

C型肝炎ウイルス関連腎症

  • 本態性混合性クリオグロブリン血症による血管炎を生じる。HCVとその抗体による免疫複合体による血管炎である。
  • 紫斑、結節、潰瘍などの皮膚症状、関節炎、筋力低下、Raynaud症状、多発単神経炎を認める。肝機能はほぼ全例で異常を示し、肝硬変のこともある。
  • 組織的にはMPGNが多い。膜性腎症の場合もある。免疫複合体やクリオグロブリンの血管内沈着を認める。蛍光抗体法ではIgG、C3沈着を見る。腎病変のほとんどは進行が緩徐であり、腎不全は月から年の単位で進行する。
  • 腎症としての治療を行うべきかどうかの結論が出ていないがネフローゼ症候群、高血圧の出現、血清Cr上昇、生検にて尿細管間質病変の証明がなされれば、腎予後不良につながる所見であるため積極治療を検討する。
  • リバビリンなどの抗ウイルス治療によりHCV-RNA陰性化がなされれば尿蛋白、腎機能をはじめ腎外症状の改善が期待できる。
  • GFR>50ml/min/1.73m2ではリバビリン+peg-IFNを投与する。GFR15~50 ml/min/1.73m2ではpeg-IFN単独投与を行う。GFR<15 ml/min/1.73m2ではIFN単独投与を行う。
  • 急性腎不全、進行性の多発単神経炎、重度の末梢循環不全に対して血漿交換+ステロイド+CYが有効なことがあり、抗ウイルス療法を行う前に投与を検討する必要がある。

感染性心内膜炎による腎障害

  • 亜急性細菌性心内膜炎(Streptococcus viridansが起因菌)、急性細菌性心内膜炎(Staphylococcus aureusが起因菌)に伴って腎障害が生じることがある。
  • 典型的な心内膜炎の経過中に腎炎が生じれば診断に難しくない。
  • しかし、無症状で腎障害が発生し、腎生検にて免疫複合体腎炎を認めた後に心エコーにて感染性心内膜炎と診断される例もある。
  • 糸球体腎炎は適切な抗菌治療が行われる前に発症することが多い。
  • 起因菌と菌体成分に対する抗体が免疫複合体を形成し糸球体に沈着して発症する。
  • 血尿、時には肉眼的血尿と蛋白尿を認める。ネフローゼ症候群は少ない。検査ではCRP上昇、赤沈亢進、白血球増多などの炎症反応の上昇や低補体血症、免疫複合体、リウマチ因子、クリオグロブリン血症、PR3-ANCA陽性などを認める。
  • 腎生検では管内増殖性糸球体腎炎、毛細管壊死が特徴で巣状分節状壊死性糸球体腎炎とも呼ばれる。
  • 進行すると管外増殖性糸球体腎炎(半月体形成性腎炎)に伸展する。蛍
  • 光抗体法では糸球体係蹄とメサンギウム領域にC3/ C4/IgG/IgM/IgAなどの一部が顆粒状に沈着する。黄色ブドウ球菌の時には溶連菌感染後糸球体腎炎類似の組織像をとることがある。治療は感染のコントロールである。
  • 治療開始後10日以上経過してから生じた腎障害の場合は、抗菌薬などの薬剤性間質性腎炎を鑑別する。腎梗塞が腰痛、腹痛、肉眼的血尿、急速な腎機能低下で発症することがあるが抗菌薬治療後数ヶ月経過してから生じることもある。

MRSA腎症

  • MRSA感染後にネフローゼレベルの蛋白尿を合併する急速進行性糸球体腎炎が生じることがある。
  • MRSAが産生する外毒素(スーパー抗原)が種々のT細胞の活性化を引き起こし、多クローン性免疫グロブリンが産生。IgG、IgAによる免疫複合体が糸球体に沈着して腎炎を起こす。
  • MRSA感染後数週~2ヶ月で発症する。
  • 血清IgA、IgGの上昇、補体価正常が特徴。紫斑も約30%に見られる。
  • 腎生検では管内増殖性糸球体腎炎と尿細管間質障害を認める。
  • 治療はMRSAに対する抗菌治療を行う。MRSA感染がなくならない状態での免疫抑制療法は禁忌である。

シャント腎炎

  • 脳室-腹腔シャント術後に、挿入時に混入したブドウ球菌等の細菌により、長期かつ軽微な感染が続く場合がある。抗原血症が持続し持続的な抗原刺激がなされると抗体産生がなされる。その結果、免疫複合体腎炎が生じシャント腎炎と呼ばれる。
  • 貧血、間欠的な発熱、食欲不振、倦怠感、浮腫、紫斑、関節痛、リンパ節腫脹、肝脾腫がみられることがある。
  • 低補体血症は約70%に認められる。リウマチ因子、クリオグロブリンもしばしば陽性になる。
  • 尿所見は血尿、蛋白尿がほぼ必発。ネフローゼ症候群も35%に認める。
  • 血液培養では菌を検出できないことが多い。シャント腎炎の合併は0.7~2.3%とされ、術後から発症までは2~4年が44%、6年以上も18%あり、かなり時間が経過してから発症する場合も多い。膜性増殖性糸球体腎炎をしめす。
  • 治療はシャント感染の完治かシャント除去である。抗菌薬による完治はbiofilm形成などにより難しいため結局ほとんどシャント除去が必要になる。シャント除去後の腎予後は良好である。
  • 感染性心内膜炎による腎障害と類似する点が多いが、起因菌の病原性の強さを反映してシャント腎炎では膜性増殖性糸球体腎炎が多く、感染性心内膜炎に伴う糸球体腎炎では巣状壊死性糸球体腎炎/半月体形成性腎炎が多い。

深部膿瘍に関連した腎炎

  • 深部膿瘍感染が長期に持続したとき急速進行性糸球体腎炎を起こすことがある。
  • グラム陰性桿菌、Psudomonas感染、黄色ブドウ球菌感染の持続により、抗体が産生され免疫複合体が生じ腎炎を起こす。
  • 感染巣は外傷、肺膿瘍、横隔膜下膿瘍、虫垂炎、骨髄炎などが報告されている。
  • クリオグロブリン血症や血中免疫複合体上昇が傍証になる。急激に乏尿性に腎機能が悪化し、血液透析が必要となることもまれでない。
  • 病理像は半月体形成性腎炎であるが、蛍光抗体では免疫グロブリン、C3が顆粒状に沈着する。
  • 治療は外科的処置による感染巣の除去である。完全に除去できればクリオグロブリンも消失し腎機能の改善が期待できるが、除去できない場合は腎機能障害が進行する。

HIV腎症

  • HIV腎症はHIV感染後どの段階でも起こりうるとされている。AIDS未発症で強力な多剤併用療法(highly active antiretroviral therapy:HAART)の浸透した今日であっても、治療によりHIV-RNAが消失した状態であっても腎症を認めることがある。
  • 通常ネフローゼレベルの大量の蛋白尿と腎機能低下を見る。しかし、比較的末梢の浮腫は軽度で高血圧の合併も少ない。超音波では高輝度で腎は腫大していることが多い。
  • HIV患者に腎不全の合併を見た場合、薬剤性腎障害の除外をまず考える。薬剤性障害の除外を行ったら鑑別のため腎生検を行う。腎生検では尿細管の微小嚢胞様拡張が特徴的な虚脱性巣状分節性糸球体硬化症をHIVの腎生検例の約50%に認めるが、この組織型のみをHIV関連腎症と呼ぶ。
  • その他にはメサンギウム増殖性腎炎、IgA腎症、微小変化型ネフローゼ、糖尿病性腎症、アレルギー性間質性腎炎、軽鎖沈着症、アミロイドーシス、Thrombotic microangiopathy(TMA)、急性尿細管壊死、プロテアーゼ阻害薬による結晶沈着、カポジ肉腫/悪性リンパ腫の浸潤、Fanconi症候群などさまざまな腎病変を合併する。HIV関連腎症は無治療の場合は数週から数ヶ月で末期腎不全になる。HAARTにより腎不全進行が緩徐になった、ACE-Iが腎機能保持に有用。プレドニゾロンで尿蛋白減少効果ありなどの報告があるが確立された治療は無い

ヒトパルボウイルスB19感染による腎障害

  • ウイルスに対する抗原抗体反応の結果、免疫複合体が生じて糸球体腎炎を発症することがある。
  • 管内増殖性糸球体腎炎の形態で蛍光抗体法ではIgG、補体沈着を認める。
  • 一部の症例では糸球体内でHPVB19のウイルス抗原が同定される。
  • 腎炎は自然寛解することが多い。
  • パルボウイルス感染症はSLE様の症状を呈することが多いので、ループス腎炎との鑑別で念頭に起きたい疾患である。