サルコイドーシスの呼吸器病変

  • 肺病変は90%以上の患者にみられる。
  • 呼吸困難、乾性咳嗽、胸痛は全患者の1/3〜1/2にみられる。
  • 胸痛は漠然とした締め付け感程度でることが多いが、激烈な痛みになることもある。
  • 喀血やばち指はまれ。
  • 肺実質に肉芽腫を形成し、浸潤影、結節影、蜂巣肺、嚢胞形成をする。線維化の結果、牽引性気管支拡張も生じる。
  • 気道病変(喉頭、気管、気管支)、胸水、乳び胸、気胸、胸膜肥厚/石灰化、空洞形成、リンパ節石灰化を認めれることもある。

2015診断基準には以下の2つが含まれる。

 

  1.  両側肺門リンパ節腫脹(BHL)
  2. CT/HRCT画像で気管支血管周囲間質の肥厚やリンパ路に沿った多発粒状影。 リンパ路に沿った分布を反映した多発粒状影とは小葉中心性にも、小葉辺縁性(リンパ路のある胸膜、小葉間隔壁、気管支動脈に接して)にも分布する多発粒状影である。

サルコイドーシスの診断基準と診断の手引き2006”には、BHL以外の肺サルコイドーシスを強く示唆する所見として以下の項目も挙げられている。

 

①胸部X線写真

  1. 上肺野優位でびまん性分布をとる肺野陰影、粒状影、斑状影が主体。
  2. 気管支血管束周囲不規則陰影と肥厚
  3. 進行する上肺野を中心に肺野の収縮を伴う線維化病変

②CT所見

  1. 肺野陰影は、小粒状影、気管支血管周囲間質の肥厚像が多く見られ、局所的な収縮も伴う粒状影はリンパ路に沿って分布することを反映し、小葉中心部にも小葉周辺部(胸膜、小葉間隔壁、気管支肺動脈)にもみられる。
  2. 結節影、塊状影、均等影も頻度は低いが見られる。胸水はまれである。進行し線維化した病変が定型的な蜂窩肺を示すことは少なく、牽引性気管支拡張を伴う収縮した均等影となる事が多い。

③気管支鏡所見

  1. 網膜状網細血管怒張
  2. 小結節
  3. 気管支狭窄

胸部X線所見

 

  1. 上肺野優位でびまん性の分布をとる肺野陰影,粒状影,斑状影が主体.
  2. 気管支血管束周囲不規則陰影と肥厚.
  3. 進行すると上肺野を中心に肺野の収縮を伴う線維化病変をきたす.

 

 

Case1:両側肺門リンパ節腫脹(BHL)

 

Case2:両側肺門リンパ節は腫脹し、石灰化を伴う(矢印)。両上肺野優位に瀰漫性の粒状網状影を認める。

 

Case3:両側上肺野に浸潤影/結節影。右下肺野にも浸潤影を認める。肺野の上方への牽引により横隔膜挙上がみられる。

 

Case4:両肺野優位に進行した蜂巣肺。肺野の収縮により横隔膜挙上もみられる。

サルコイドーシスの胸部CT所見

リンパ路に沿って肉芽腫を作るため、気管支血管束、小葉間隔壁などに病変を作る。

  1. 肺野陰影は、小粒状影、気管支血管周囲間質の肥厚像が多く見られ、局所的な収縮も伴う粒状影はリンパ路に沿って分布することを反映し、小葉中心部にも小葉周辺部(胸膜、小葉間隔壁、気管支肺動脈)にもみられる。
  2. 結節影、塊状影、均等影も頻度は低いが見られる。胸水はまれである。進行し線維化した病変が定型的な蜂窩肺を示すことは少なく、牽引性気管支拡張を伴う収縮した均等影となる事が多い。

case5:黒矢印は小葉間隔壁に沿った小粒状影集簇、白矢印は葉間胸膜に沿った粒状影を示す。

 

case6:腫瘤影(塊状影)の周囲には小結節影を認め"galaxy sign"とよばれる。

 

case7:線維化が進行し牽引性気管支拡張を示している。下葉優位で3-10mm程度の嚢胞の集簇である典型的な蜂巣肺とは異なっている。

サルコイドーシスの気管支鏡所見

  1. 網膜状網細血管怒張
  2. 小結節
  3. 気管支狭窄

付記)気管支肺胞洗浄検査で下記の所見を認める場合は診断の参考になる.

  1. 回収細胞数の増加.
  2. リンパ球比率の増加.
  3. CD4/8比の増加.
  • 但し気管支肺胞洗浄液所見は喫煙の有無により正常範囲が変化するのでその点を考慮して評価する.
  • 気管支肺胞洗浄液所見については非喫煙者リンパ球比率>17%,CD4/8>3.5を増加の基準として参考に する.

粘膜の小結節が集簇し”cobblestone appearance"が形成されている。

肺サルコイドーシスのstage分類

肺サルコイドーシスは胸部単純X線写真によるstage分類があり、治療方針を決める目安となっている。

肺サルコイドーシスの鑑別診断

サルコイドーシスの診断には除外診断が重要である。

鑑別すべき疾患には以下の疾患が挙げられる。

  • 悪性リンパ腫とリンパ増殖性疾患
  • 結核
  • 塵肺
  • 過敏性肺臓炎
  • 多発血管炎性肉芽腫症(Wegener肉芽腫症)
  • 転移性肺腫瘍
  • アミロイドーシス
  • 慢性ベリリウム肺
  • 気管支上皮癌
  • 珪肺
  • 肺線維症
  • 強皮症
  • リウマチ肺
  • ループス肺臓炎
  • 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(Churg-Strauss症候群)
  • 肺メモジデローシス
  • コクシジオイデス症
  • ブルセラ症

肺サルコイドーシスの治療

  • 自然軽快する例も多いため過剰な治療を行わない。即座に治療すべき状況をでなければ、経過を観察しながら適応があるかを見極める。
  • サ症での死亡率は5%である。進行性の肺線維症や肺性心、肺アスペルギルス症による吐血。心サルコイドーシスなどが原因となる。

【肺サルコイドーシスの治療手順】サルコイドーシスの治療に関する見解2003”より

治療適応の判断

 

すぐに治療適応がある場合≫

  • 症状がある場合(咳、息切れ、胸部不快感、血痰)
  • 肺機能検査でFEV1.0<予測値の70%またはSpO2<90%またはDLCO<60%
  • 太い気管支、血管周囲の肥厚、気管支の変形/拡張や無気肺の悪化など広範囲なX線異常陰影

《治療適応を考える場合》

  • 経過中に上記の症状が出現した
  • 3~6ヶ月経過観察して肺機能が悪化する場合(TLC10%以上またはFVC15%以上またはDLCO20%以上またはSpO2 4%以上の低下)
  • 画像所見が悪化する場合(間質影、空洞性病変、線維化など)
  • 肺高血圧の悪化
  • 眼、神経、心、腎などの肺外病変、または高Ca血症/尿症を認める場合。
  • 発熱、筋力低下、倦怠感、持続する皮膚症状、上気道症状、肝障害がある場合は治療の絶対適応ではないが、症状を訴える場合には治療適応がある。

《治療の適応がないまたは保留とする場合》

  • StageⅠ、StageⅡで無症状(60~80%が自然に寛解する)
  • 肺機能に軽度の低下がみられるが血液ガスは正常で無症状の場合は無治療で3~6ヶ月経過観察する。(50%は改善がみられる)
  • Stage3で肺機能軽度低下があるが無症状の場合も経過観察でよいが、改善がみられるのは33%のみにとどまる。

 ≪ステロイド治療≫

  • ステロイドの使用量についての根拠は乏しいが内服ステロイド治療の場合はPSL30mg/日(0.3~0.6mg/kg)または60mg/隔日で4週間継続。その後2~4週ごとに5mgずつ漸減する。隔日投与の場合は10mgずつ漸減する。
  • 治療の反応性の評価は自覚症状の改善が最も重要であるが、理学所見、胸部X-p、肺機能検査も参考にする。
  • 改善しない場合や減量とともに咳、呼吸困難、胸痛などを伴って再燃する場合は、後述のMethotrexate、Azathioprineなどの免疫抑制剤の併用を考慮する。
  • 維持量としてPSL2.5~5mg/日または5~10mg/隔日を目標とする。
  • 治療開始から1~2年を経て安定している場合は中止を試みることも可能である。
  • 中止後に再燃する割合が約1/3といわれる。
  • stegeⅠまたはⅡで咳や喘鳴のみが問題となる場合や経口ステロイド維持療法の代用として吸入ステロイド治療が行われることがある。吸入ステロイドは肺機能の改善はみられないが、咳や喘鳴の改善をみたという報告がある。

《ステロイド以外の治療を考慮する場合》

  • PSL15mg以上投与を継続しているにも関わらず進行を抑制できない。
  • コントロール不良の糖尿病や体重増加が著しい、ステロイド筋症、骨粗鬆症
  • PSL10-15mg以下に減量すると病勢が再燃し、ステロイドの副作用も同時にある場合。
  • 患者がステロイドの使用を拒否した場合。
  • 治療強化の前に改善しない理由を考える必要がある。ステロイドを患者が飲んでいないというのはよくある原因である。十分な説明をし納得させる。
  • 合併症の評価も必要である。既に肺機能が落ちている。感染、心不全、肺塞栓、肺高血圧を合併している。肺機能検査、胸部CT、心エコーなどを行いベリリウムの曝露があるかどうかの確認を再度行う。
  • 可逆性の病変かどうかの評価も重要である。HRCTだけでは十分な評価は出来ない。長期に肺機能が安定している場合は線維化が固定化していると考えてよい。しかし迷う場合は免疫抑制剤を投与して治療反応性があるかを確かめることもある。

治療薬

①メトトレキセート

  • 小規模のRCTを含めた研究でMTXの有効性を示すものがある。肺、眼、中枢神経病変に効果を認めている。肺サ症は40-60%の奏功率と報告されている。
  • 7.5mg/週から開始し15mgまで増量可能。筋注は嘔気が強いときや3-6ヶ月15mgで治療しても改善のない時には筋注を行ってもよい。
  • 血算、肝機能、アルブミン、B型肝炎、腎機能、C型肝炎の有無を調べる

②アザチオプリン

  • 肺サ症に対してMTX不応例や副作用で使用できない場合に試みられる。
  • 少数例の研究があるのみである。
  • 通常50mg/日で開始しする。
  • 副作用の発現率はTPMT遺伝子解析により予測できるとされる。投与前に血算、アルブミン、肝機能、腎機能を測定しておく

③レフルノミド

  • 関節リウマチでも使われるレフルノミドが有効であったという報告もある。
  • MTX+レフルノミドの使用報告もある。

④生物製剤

  • PSL15mg/日でも押さえ込めず、MTX、AZA、LEFで効果が得られない場合に候補となる。潜在性結核の除外のためツベルクリン反応やクオンティフェロンテストを行う

 ● Infliximab(IFX)

  • 一定の効果が見られたが、効果の持続が不十分、CD4+リンパ球減少がある場合に効果が出やすいという報告もある。(chest2010;137:1432)
  • IFX+MTXまたはIFX+AZAは有効と考えられるがデータが乏しい。

    ● Adalimumab

  • 皮膚、血液異常の症例で効果があったとする報告がある。

  ●Etanercept

  • StageⅡまたはstageⅢの肺病変に対する使用報告がある。眼病変に対して試みられたが改善が見られず治験が中止となっている。

⑤その他の効果が期待できる薬剤。

  • Cyclophosphamideは上記の薬剤が使えない場合に試されることがある。CPA25~50mgから増量するが白血球4000~7000/mm3を目安に増量する。500~1000mg/mm3を2~4週ごとのパルス療法で代用することもある。
  • ボセンタンはエンドセリンレセプター阻害薬は線維化を抑制する目的で肺線維症や肺高血圧の治験薬として期待されていて治験が進行中である。
  • ミコフェノール酸モフェチルは皮膚、中枢神経、腎サ症で有効であったとする症例報告がある。
  • コルヒチンはサルコイド関節症には有効であったが、肺サ症には無効であった。
  • cyclosporin(CsA)は小規模症例の報告で有効性が示されず、多毛や知覚異常、高コレステロール血症などの副作用が増えた。
  • NSAIDは関節炎や発熱にはよいが肺サ症には有効でない。
  • テトラサイクリン系抗菌薬、サリドマイドは皮膚症状を改善したが肺サ症の改善効果は示せない。

⑥現在治験が進行中の薬剤には以下のものがある

 

  • 現在肺サ症に対してはustekinumab/golimumab(Phase2)、Pentoxifylline(Phase2)、Atorbastatin(Phase2)、末梢血幹細胞移植(PhaseⅠ)
  • 難治性肺サ症に対してRituximab(Phase2)、Abatacept(Phase2)、
  • 肺高血圧に対してAmbrisentan(Phase2,phase3)、Bosentan(Phase2、PhaseⅢ) 、吸入Iloprost(Phae4)、Tadalafil(PhaseⅡ、PhaseⅢ)、

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