ぶどう膜炎と内科疾患

ぶどう膜炎とは

眼の解剖
図1 赤字はぶどう膜の要素

 虹彩、毛様体、脈絡膜を合わせてぶどう膜といい(図1)、これらの炎症をぶどう膜炎または眼内炎と呼ぶ。

 ぶどう膜炎は炎症の部位により、前部ぶどう膜炎(anterior uveitis)、中間部ぶどう膜炎(intermediate uveitis)、後部ぶどう膜炎(posterior uveitis)と内眼部の全体に炎症が及ぶ汎ぶどう膜炎(panuveitis)に分類される(図2、図3)

 網膜炎はぶどう膜炎に含まれるが、網膜はぶどう膜には含まれない。

 

図3:ぶどう膜炎の分類1)
図3:ぶどう膜炎の分類1)

ぶどう膜炎の症状

hypopyon and fibrin clot formation
図4 前房蓄膿(矢印)とフィブリン析出(矢頭)

臨床症状が強いのは前部ぶどう膜炎で、眼痛、結膜充血、羞明、視力低下が生じる(図4)。

中間部ぶどう膜炎は比較的症状が乏しい。

後部ぶどう膜炎は飛蚊症、視力低下を生じる。

汎ぶどう膜炎はこれらの症状が様々に組み合わさる。

ぶどう膜炎の原因疾患

ぶどう膜炎の全国疫学調査(2010年vs 2002年)

文献2)、3)を参考にして作成

  疾患

2010年度

(3830名)

2002年度

(3060名)

2002

順位

1  サルコイドーシス 407(10.6%)  407(13.3%) 1
2 vogt-小柳-原田病 267(7.0%) 205(6.7%) 2
3 急性前部ぶどう膜炎 250(6.5%) 46(1.5%) 7
4 強膜炎 235(6.1%)    
5 ヘルペス性虹彩炎 159(4.2%) 110(3.6%) 5
6 ベーチェット病 149(3.9%) 189(6.2%) 3
7 細菌性眼内炎 95(2.5%) 115(3.8%) 4
7 仮面症候群 95(2.5%)    
9 Posner Schlossmann 69(1.8%) 57(1.9%) 5
10 網膜血管炎 61(1.6%)    
11 糖尿病性虹彩炎 54 48(1.6%) 7
11 眼結核症 53 20 17
13 眼トキソプラズマ症 48 36 10
14 MEWS

40

   
15 真菌性眼内炎 39 32 13
16 サイトメガロウイルス網膜炎 37 24 16
17 関節リウマチ関連 29 31 15
18 HTLV-1関連 29 35 11
19 炎症性腸疾患関連 28 18 18
20 MPPE 28    
21 全身病関連 27    
22 周辺部ぶどう膜炎 26    
23 多発性脈絡膜炎 23    
24 フックス虹彩異色 21 15 20
25 APMPPE 16    
26 TINU 15    
27 梅毒関連 15    
28 水晶体誘発ぶどう膜炎 13    
29 JRA関連 11 15 21
30 地図状網膜脈絡膜炎 11    
31 交感性眼炎 10    
32 眼トキソカラ症 9 35 11
  その他 212(2.9%)

341(11.1%)

 
  分類不能 1282(33.5%)

1191(38.9%)

 

MEWDS: multiple evanescent white dot syndrome

HTLV-1: Human T-cell lymphotropic virus type 1

MPPE: multifocal posterior pigment epitheliopathy

APMPPE: acute posterior multifocal placoid pigment epitheliopathy

TINU: Tubulointerstitial nephritis and uveitis

 本邦の主要大学病院を対象にした疫学調査の結果を示した。

 サルコイドーシス、vogt-小柳-原田病が多い。急性前部ぶどう膜炎は2002年度調査ではHLA-B27関連ぶどう膜炎と呼ばれていた。

ぶどう膜炎でサルコイドーシスが占める割合は年齢、性別や人種で違うが、2-15%であり、日本人では高頻度である。

 


ぶどう膜炎の評価方法

以下の検査が用いられる。

  1. 光干渉断層系(optical coherence tomography:OCT)
  2. 眼底自然発光(Fudus autofluorescence)
  3. 蛍光眼底造影(Fundus fluorescein angiography)
  4. インドシアニングリーン血管造影(Indocyanine green angiography)
  5. 超音波顕微鏡(ultrasound biomicroscopy)
  6. 後部観察用超音波顕微鏡(B-scan ultrasonography)

1、光干渉断層系(optical coherence tomography:OCT)

≪spectral domain OCT≫

2、眼底自然発光(Fudus autofluorescence)

網膜色素上皮の機能評価のためフルオレセイン蛍光眼底撮影が行われてきたが、造影剤なしでリポフスチンの自然発光により評価する。

3、蛍光眼底造影(FA:Fundus fluorescein angiography) 

4、インドシアニングリーン血管造影(ICGA:Indocyanine green angiography)

 

  • FAは網膜の血管評価のために用いる。フルオレセイン注射後8-13秒で、網膜動脈が造影され、網膜静脈の管壁に沿った層流がみられる。毛細血管閉塞では造影されずに暗く抜けて写る。また、血管炎や異常な新生血管があると蛍光色素が漏出して明るくみえる。
  • ICGAは波長が赤外線に近くて透過性が高いためより深い脈絡膜の血管評価が可能である。

5、超音波顕微鏡(ultrasound biomicroscopy)

  • 前眼部、特に角膜強膜境界部や毛様体を鮮明に描出できる。

6、後部観察用超音波顕微鏡(B-scan ultrasonography)

ぶどう膜炎の鑑別

 急性 vs 慢性、単眼 vs 両眼、前部 vs 中間部 vs 後部 vs 汎で分類する。

 ”肉芽腫性”、”非肉芽腫性”という用語も使われるが、病理組織での肉芽腫を指すのではなく、白血球の集簇がみられることを意味する。前部ぶどう膜炎では角膜表面に羊脂状角膜後面沈着物(mutton fat)が特徴的で、そのほか部位によりBusacca結節(虹彩)、Koeppe結節(瞳孔周囲)、snowball(硝子体)、candle wax drippings(網膜血管周囲)などとの名称でよばれることがある。

 

 治療を踏まえて分類すると、感染性か非感染性かに分けられ、約20%が感染性ぶどう膜炎である。

differentiation of uveitis
表2 ぶどう膜炎の鑑別診断

全身疾患とぶどう膜炎

ぶどう膜炎は全身疾患の部分症として出るものが多いため、鑑別のためには他臓器も評価する必要がある。

代表的疾患の一覧表を示す。

≪ぶどう膜炎を合併する全身疾患≫

疾患 眼病変 他臓器症状、検査異常 備考
サルコイドーシス 汎ぶどう膜炎 両側肺門リンパ節腫脹、上肺野優位の粒状影、線維化、心伝導障害、心室中隔基部菲薄化、丘疹、結節、皮下結節 本邦のサルコイドーシスでは眼合併症が多い
 Vogt-小柳-原田病  汎ぶどう膜炎 髄膜炎、聴力障害、白斑、白毛 急性期は網膜脈絡膜炎、その後前眼部病変を合併
急性前部ぶどう膜炎 前部ぶどう膜炎 炎症性腰痛、仙腸関節炎、HLA-B27陽性、強直性脊椎炎 強直性脊椎炎患者の約半数にぶどう膜炎を合併
ベーチェット病 汎ぶどう膜炎 再発性口内アフタ、陰部潰瘍、結節性紅斑、毛嚢炎、針反応、関節炎、回盲部潰瘍、大血管炎 30-60%に眼病変を合併。前房蓄膿は眼ベーチェットの30%に合併し特徴的。日本眼科学会より診療ガイドラインあり。
糖尿病性虹彩炎 虹彩炎、網膜症、視神経障害、眼球運動障害、白内障 高血糖 糖尿病1-3%、1型、2型ともに生じる。糖尿病コントロール不良と関連、他疾患の除外が大事。
ヘルペス 片眼性虹彩毛様体炎、角膜ヘルペス、網膜炎

HSV-1:口唇ヘルペス、ヘルペス性歯肉口内炎

HSV-2:陰部ヘルペス

VZV:顔面部帯状疱疹

 

EBVによるぶどう膜炎は慢性活動性EBウイルス感染症の症状であることがある。

CMV網膜炎はAIDSによる日和見感染が大多数。

炎症性腸疾患 非肉芽腫性再発性ぶどう膜炎 腹痛、下痢、血便、不明熱 片眼も両眼もありうる。10%に虹彩毛様体炎、6%に漿液性網膜剥離
乾癬 非肉眼腫性虹彩毛様体炎 乾癬の皮疹、関節炎 HLA-A2合併頻度が高い。一部はHLA-B27陽性の急性前部ぶどう膜炎になる。汎ぶどう膜炎の報告もある。
若年性特発性関節炎 慢性虹彩毛様体炎 抗核抗体陽性、少関節型 全身型には合併しない。両眼性が多い。小児で訴えが遅れるため進行した段階での受診が多い。
TINU 虹彩毛様体炎 尿中β2MG高値、尿中NAG上昇 間質性腎炎の発症前後にぶどう膜炎を生じる。腎炎の活動性と無関係に再燃。

≪参考文献≫

1)Joint Bone Spine,  82: 308-314,2015

2)Ohguro, N., et al.: The 2009 prospective multi-center epidemiologic survey of uveitis in Japan. Jpn J

Ophthalmol. 56: 432-435, 2012.

3)Goto H, Ohno S, et al :Epidemiological survey of intraocular infl ammation in Japan. Jpn J Ophthalmol,51, 41-44 (2007)