認知症とせん妄

  • 認知症とは、一度獲得した認知機能が脳の損傷により持続的に障害をきたし、患者の生活や対人関係が障害された状態である。
  • 認知障害は中核症状である記憶障害、記銘力障害、見当識障害。異常行動である幻覚・妄想、抑鬱、不安、焦燥。さらに周辺症状として意欲低下、自発性低下がある。
  • せん妄は一過性の意識障害を意味であるが、外的刺激に対して正しい状況判断や反応が欠如した状態をいう。
  • 意識障害が軽度な場合は、思考力、記憶力、見当識障害が主体の錯乱状態を認める。中等度以上では興奮、錯覚、幻覚が加わったせん妄になる。さらに悪化すると混迷が生じる。
  • 認知障害とせん妄は鑑別が難しいことがあるが、これらの鑑別は重要で、せん妄は迅速かつ適切な診断により治療可能であることが多い。

認知症とせん妄の鑑別

  • 認知症とせん妄は以下のような差異があるが、いずれも絶対的でないので総合判断を行う。
  • また軽い認知症患者がせん妄を起こすこともあるので完全に分けられないことがあることも留意する必要がある。

①発症形式と症状の動揺性

  • せん妄は比較的急激(数時間から数日)に症状が出現し、症状が動揺性で日内変動がある。
  • 認知症は発症様式が潜在性(数ヶ月から数年)で動揺性はなく、慢性に進行する。

②注意力

  • せん妄は初期症状として注意集中困難や意識障害がみられ、記憶は即時、近時記憶障害が中心。
  • 認知症は記憶障害(近時、遠隔記憶)が主体で注意力は正常。
  • HSD-Rに含まれる3桁または4桁の逆唱は注意力の評価に有用である。逆唱可能場合は注意力は正常であると判断できる。

③障害されやすい失見当識の順序

  • せん妄は時間、場所、人物に対する見当識が同時に障害される。
  • 認知症は時間→場所→人物の順で障害されることが多い。

④睡眠覚醒リズム

  • せん妄は初期から睡眠覚醒リズムが障害される。顕著な脳波の徐波化をみる。
  • 認知症では睡眠リズムは保たれる。脳波の徐波化は軽度。

⑤錯覚、幻覚

  • せん妄では視覚性の錯覚、幻覚が多い。
  • 認知症では視覚性の錯覚、幻覚は稀。

⑥病識

  • せん妄では初期から病識が欠如
  • 認知症では初期には病識がある場合が多い。

⑦薬剤

  • せん妄では薬剤の関与が多い。
  • 認知症では薬剤の関与が少ない。

⑧診察時の所見

  • せん妄患者では視線が合わず、疼痛などの刺激で覚醒度が上がり視線が合う現象がみられることがある。
  • 認知症患者では視線は合うことが多い。
  • これらを短時間で複数回確認し、変動性も評価する。

必要な検査

  • 頭部のCTやMRI:脳血管障害や脳腫瘍などの器質的疾患を確認
  • 脳血流シンチグラフィー:血流を評価
  • 脳波:非痙攣性てんかん重積、肝性脳症などとの鑑別
  • 髄液:脳炎、髄膜炎などの鑑別

《関連ページ》

治療可能な認知症

急速進行性認知症

《参考文献》

佐々木彰一。痴呆と意識障害の鑑別。総合臨床2002;51:2481-82

杉本あずさ。意識障害と認知障害の診分け方。Modern physician 2013;33:69-72