アナフィラキシー

  • アナフィラキシーは1分1秒を争う状態であり、迅速な評価と治療開始を必要とする。
  • 喉頭浮腫、気道閉塞、ショックで心停止も起こりうる。
  • 最初のバイタルサインが安定していても、その後急速に状態が悪化することがある。
  • エピネフリンは副作用よりも、投与の遅れによる重症化のリスクの方がはるかに大きい。適応を迅速に判断し躊躇なく投与することが重要である。迷ったら投与する方がよい。

アナフィラキシーの症状

  • 頻度が高いのは全身蕁麻疹で90%に認める。
  • 呼吸困難や血圧低下があればわかりやすいが、腹部症状も大事。嘔吐、下痢、腹痛も必ず聴取する。

≪アナフィラキシーの症状と出現頻度≫

アナフィラキシーの診断基準

以下の3つのうち1つを満たした場合にアナフィラキシーと診断する。

①皮膚粘膜+(呼吸器 or 循環器)

皮膚症状(全身の発疹、掻痒または紅潮)または粘膜症状(口唇、舌、口蓋垂腫脹)のいずれかが存在し、急速に(数分から数時間以内)に発現する症状でかつ、a、bのいずれかを伴う。

a)呼吸器症状(呼吸困難、気道狭窄、喘鳴、低酸素血症)

b)  循環器症状(血圧低下、意識障害)

 ②アレルゲン暴露+以下2つ(皮膚粘膜 or 呼吸器 or 循環器 or 消化器)

 一般にアレルゲンとなりうるものへの暴露後、急速に(数分から数時間以内)発現する次のa~d症状のうち、2つ以上を伴う。

a) 皮膚・粘膜症状

b) 呼吸器症状(呼吸困難、気道狭窄、喘鳴、低酸素血症)

c) 循環器症状(血圧低下、意識障害)

d) 持続する消化器症状(腹部疝痛、嘔吐)

③アレルゲン暴露+血圧低下

当該患者におけるアレルゲンへの暴露後の急速な(数分から数時間以内)血圧低下。

[収縮期血圧低下の定義]

・平常時血圧の70%以下

・生後1~11ヶ月<70mmHg

・1~10歳<70mmHg+(2×年齢)

・11歳~成人<90mmHg

アナフィラキシーの治療

 

初期対応として以下を行う。

①バイタルサインの確認 循環、気道、呼吸、意識、皮膚、体重を評価
②助けを呼ぶ  可能なら蘇生チーム、救急隊をコール
③アドレナリン筋肉注射

0.01mg/kg(最大量:成人0.5㎎、小児0.3㎎)

必要に応じて5~15分毎に再投与

④患者を仰臥位にする

仰向けにして30cm程度足を高くする。

呼吸が苦しい時は少し上体を起こす。

嘔吐しているときは顔を横向きにする。

突然立ち上がったり座ったりした場合、数秒で急変することあり。

⑤酸素投与

必要に応じて、

フェイスマスクか経鼻エアウェイで高流量(6~8L/分)の酸素投与

⑥静脈ルートの確保

必要に応じて、

0.9%生理食塩水を5~10分の間に5~10ml/㎏、小児なら10ml/㎏投与。

血管漏出により、血管内血漿量が急激に低下。重症時には10分以内に50%低下する。

⑦心肺蘇生

必要に応じて

胸部圧迫法で心肺蘇生を行う。

⑧バイタル測定

頻回かつ定期的に患者の血圧、脈拍、呼吸状態、酸素化を評価する。

アドレナリン

  • 遅滞なくアドレナリンの適応を判断して投与することが最も重要である。
  • アドレナリンはショックの防止と緩和、上気道閉塞の軽減、蕁麻疹/血管浮腫の軽減、下気道狭窄の軽減効果が期待できる。
  • ①投与のタイミング、②投与部位、③投与量を知っておく。
  • ②投与部位:血流が豊富な大腿前外側(外側広筋)または臀部に筋注する(皮下注では最高血中濃度までの時間が約4倍:筋注8分 vs 皮下注34分)
  • ③投与量:適切な投与量(成人0.3~0.5㎎)ならば、問題となる副作用は生じない。蒼白、振戦、不安、動悸、めまい、頭痛が起こることもあるが、薬理作用量が注射されたことを意味する。必要に応じて5~15分ごとに2~3回繰り返す
  • ①投与のタイミング:簡易には”全身性蕁麻疹/抗原暴露+ABCD(表2)いずれかの異常”で投与を行うと覚える。日本アレルギー学会のアナフィラキシーガイドラインでは重症度分類(表3)のgrade3、重篤なアナフィラキシーの既往があるか進行の早いgrade2、気管支拡張薬で改善しない呼吸器症状とされている。
  • BMJに有名なレビューがあるので参考にされたい。Adrenaline in the treatment of anaphylaxis: what is the evidence? (BMJ.2003;327:1332)

Adrenaline in the treatment of anaphylaxis: what is the evidence? (BMJ.2003;327:1332)

 

≪表2 アナフィラキシーのABCD≫(林寛之 ステップビヨンドレジデント3より)

A Airway 喉頭浮腫
B  Breathing 喘鳴
C Circulation ショック
D Diarrhea 消化器症状(吐気、下痢、腹痛)

≪表3 臨床所見による重症度分類≫(アナフィラキシーガイドラインより

【不適切なアドレナリン投与】

通常の0.5mg筋注では問題は生じないが、急速静脈内投与を行った場合には心室性不整脈、高血圧、肺水腫を生じることがある。但し、アナフィラキシーによる急性冠動脈症候群を生じることもある。

アドレナリンが効かない!!

アドレナリンが効かないときには以下の要素を考える。

  1. アドレナリンの使用方法が間違っている
  2. アナフィラキシーの進行が急である
  3. アドレナリン効果を阻害する薬剤の影響
  4. 体位が適切でない

1.アドレナリンの使用方法が間違っている。

  • 投与部位(外側広筋または臀部)、投与方法(筋注)、投与量(成人0.3~0.5ml)になっているかを確認。

2.アナフィラキシーの進行が急である。

  • 1回で効くとは限らない。アナフィラキシーショック症例の20%は2回目以降のアドレナリン投与が必要と言われる。投与間隔は10~15分。
  • 適切に投与しても心肺停止になる症例もある。

3.アドレナリンの効果を阻害する薬剤

  • αブロッカー、βブロッカー、ACE阻害薬内服中はアドレナリン効果が減弱する。
  • アドレナリン2回投与後も効果が乏しい場合はグルカゴン投与を行う。催吐作用あるため誤嚥に注意。
  • グルカゴンの心筋収縮、心拍数増加効果はカテコラミンとは無関係。

【グルカゴン投与方法】成人1~2㎎(小児0.02~0.03㎎/㎏)を5分以上かけて静注

 

4.体位が適切でない。

  • 坐位や立位では循環しずらいので臥位にする。

アドレナリン以外の薬物治療

抗ヒスタミン薬

  • H1blockerとH2blockerを併用する。両者の併用はH1blocker単独投与と比較して、蕁麻疹、頻脈、低血圧の治療で効果が高い。(Ann Emerg Med.2000;36:462)
  • 即効性はない(発現まで4時間程度)とする意見が一般的。

【H1blocker投与方法】ポララミン5~10㎎(小児2.5~5㎎)静注
【H2blocker投与方法】ファモチジン20㎎+生食20ml 静注

 β2刺激薬吸入

  • アドレナリンにて改善しない喘鳴に対してはβ刺激薬の吸入が有効。
  • アミノフィリン静脈注射よりも効果発現が早い。

【投与方法】ベネトリン0.5ml(小児0.1~0.3ml)+生食2ml 10~20分おきに2~3回吸入

 

副腎皮質ステロイド

  • ステロイドの効果発現は数時間を要し、目の前のアナフィラキシーを改善する効果はない
  • 二峰性反応や遷延性反応を抑制するために投与する。しかし確実な予防効果があるとするエビデンスはない(否定されてもない)。
  • 喘息(アスピリン喘息)がある場合はコハク酸エステル型ステロイド(ソルコーテフ、サクシゾン、ソルメドロール、水溶性プレドニン)ではなく、リン酸エステル型ステロイド(ハイドロコートン、デカドロン、リンデロン)を用いる。
  • 軽症ではプレドニン内服(1㎎/㎏)が選択されることもある。

【投与方法】ハイドロコートン200~500㎎+生食50ml 30分 6~8時間ごと

難治例の治療

ショックが遷延する場合

 1、グルカゴン静注【成人1~2㎎(小児0.02~0.03㎎/㎏)を5分以上かけて静注】

  • 但し、最初からグルカゴンには末梢血管を開く作用があるため、最初からグルカゴンを打ってはいけない。アドレナリン、アドレナリン、だめならグルカゴンと覚えておく。

 

 2、アドレナリン静注【アドレナリン1㎎+生食10mlを1mlずつ5分毎。血圧が触れるまで。不整脈に備えて心電図モニター必須】

  • 過量投与で死亡例もあるため、重篤な低血圧(血圧が測れない、触れない)が続く時のみに適応を慎重に判断する 

 3、ドーパミン【イノバン1~5γ(20γまで)】

  • 十分な輸液で昇圧が得られないときに試みる。
  • ドブタミンも使用可能。ドブタミンは心収縮力を挙げるが末梢血管は拡張。

喘鳴(気管支痙攣)が遷延

  •  アミノフィリン静注【ネオフィリン250㎎+生食50mlを10~30分かける】

落ち着いた後は

二峰性反応

  • 二峰性反応が5~20%に起こる。8時間以内に起こることが多い。
  • 最低でも6~8時間経過観察が必要。重症例では24時間観察。ステロイドを投与したからと言って、二峰性反応を予防できると限らない。
  • 二峰性反応でも喉頭浮腫を40%認める。
  • 以下の場合は二峰性反応のリスクが高いとされる。(Immunol Allergy Clin North Am.2007;27:309)
  1. アナフィラキシーショック
  2. 抗原暴露から症状発現までが短時間
  3. 血圧低下あり。
  4. 喉頭浮腫あり
  5. 二峰性反応の既往あり。
  6. アドレナリンの不適切使用

エピペン

  • 再発リスクが高い症例に処方する。
  • アレルゲンに再び暴露を受けうる場合や原因不明の場合に適応。
  • 本人、家族、学校教職員、救急救命士が投与可能。

アナフィラキシーの原因

  • 病歴聴取で原因を探る。
  • あらゆる薬剤がリスクになりうる。
  • 20%は原因不明。
  • RAST値は必ずしも陽性になると限らず、病勢とも相関しない。

特殊なアナフィラキシーとアナフィラキシー類縁疾患

食物依存性運動誘発性アナフィラキシー(food-dependent exercise-indeced anaphylaxis:FDEIA)

  • 食物摂取のみ、または運動負荷のみでは生じないが、特定の物質摂取後の運動負荷により、アナフィラキシーが誘発される病態。
  • 摂取後2時間以内、運動後1時間程度(45分以内が97%)で生じる。
  • 6000人に1人の有病率。
  • 小麦が最多、トウモロコシ、オレンジ、ニンジン、鶏肉なども多い。あらゆる食物が原因になる。
  • 時に、一種類の食物と運動では誘発されず、複数の食物の組み合わせと運動により生じることがある。
  • 確定診断と除外診断のために誘発試験が望ましい。

  《管理方法》

  1. 運動前には原因食物を摂取しない。原因食物摂取した場合、最低2時間は運動を避ける。摂取しなければ運動制限は必要ない。
  2. 皮膚の違和感や蕁麻疹などの前駆症状が出現した段階で、運動を直ちに中止する。
  3. 抗ヒスタミン薬、ステロイド、エピペン®を携行。
  4. 感冒薬や解熱鎮痛薬を内服した場合は運動を避ける。

ヒスタミン中毒

  • サバやマグロなどの魚介類を摂取した後に蕁麻疹が出現しアナフィラキシー様の症状が出現する。
  • 魚に含まれているヒスチジンが鮮度が落ちるとヒスタミンに変化して起こる。
  • 治療はアナフィラキシーに準じる。食事制限は必要ない。

《可能性のある食品》

サバ科 サバ、マグロ、サンマ、カツオなど
 サバ以外の魚  シイラ、イワシ、ニシン、カタクチイワシ、マカジキ、アミキリ、サーモン、ブリ、オキスズキ、ハマチなど
魚類以外 鶏肉、ハム、チェダーチーズ、ドライミルクなど

《参考文献》      救急外来ただいま診断中(p90-105):中外医学社

レジデントのためのアレルギー疾患診療マニュアル:医学書院

日本内科学会雑誌 2016;105:1966-74

《リンク》日本アレルギー学会 アナフィラキシーガイドライン