皮下脂肪織炎

皮下脂肪織炎の鑑別に重要なのは3つである。

  1. 炎症の首座が隔壁なのか脂肪小葉であるか
  2. 血管炎を認めるか認めないか。血管炎がある場合は動脈か静脈か、真皮から皮下脂肪組織の中血管か、真皮中層から上層の小血管や毛細血管か
  3. 浸潤している炎症細胞が好中球か、リンパ球か、組織球か。初期には好中球主体、完成期にはリンパ球組織球が主体となる。

皮下脂肪織炎の分類

皮下脂肪織炎の分類を一覧表に示す。

隔壁 vs 脂肪小葉 血管炎あり vs なし 組織の特徴

疾患名

隔壁性脂肪織炎  血管炎あり  小血管

白血球破砕性血管炎

リベド血管症 

大血管(静脈) 血栓性静脈炎
大血管(静脈) 結節性多発動脈炎
血管炎なし リンパ球、形質細胞主体で肉芽腫形成なし モルフェア

リンパ球、組織球が小静脈周囲に浸潤、

組織球が真皮膠原繊維と脂肪隔壁に浸潤。

リポイド類壊死症

組織球主体、リンパ球と好酸球を含む浸潤。

好中球は早期のみ浸潤

結節性紅斑
小葉性脂肪織炎 血管炎あり 小血管 らい性結節性紅斑
大血管(静脈) Crohn病
大血管(動脈) Bazin硬結性紅斑
血管なし 炎症細胞なし。隔壁と小葉の硬化を伴う

hypodermatitis sclerodermiformis

(lipodermatosclerosis,sclerosing panniculitis)

炎症細胞なし。脂肪細胞内に針状血漿様の裂隙を伴う。 新生児皮下脂肪壊死症
小葉辺縁にリンパ球主体の浸潤。 寒冷脂肪織炎
リンパ球異型を伴う

悪性リンパ腫

(菌状息肉症、皮下脂肪織炎様T細胞性リンパ腫)

組織球、血球貪食を伴う

cytophagic hisitiocytic panniculitis

リンパ球、形質細胞浸潤、リンパ球の核塵を伴う。 深在性エリテマトーデス
リンパ球、組織球、形質細胞浸潤 皮膚筋炎
好中球主体の浸潤

膵炎に伴う脂肪織炎

α1-アンチトリプシン欠乏症による脂肪織炎

外傷性脂肪織炎

細菌感染症

好中球と組織球主体の浸潤

抗酸菌感染症

深在性真菌症

寄生虫

組織球が主体の浸潤(肉芽腫あり)

サルコイドーシス

外傷性脂肪壊死

脂肪萎縮症(リポジストロフィー)

皮下結節性脂肪壊死症

ステロイド後脂肪織炎

痛風に伴う脂肪織炎

皮下型環状肉芽腫

リウマチ結節

necrobiotic xanthogranuloma

隔壁の硬化を伴う

postirradiation pseudosclerodermatous panniculitis

代表的疾患

●結節性紅斑

  • 四肢伸側に有痛性の紅色硬結を多発性に認める。
  • 細菌や薬剤などに対するⅢ型アレルギーによると考えられている。
  • 溶血性連鎖球菌による扁桃炎(ASO,ASK上昇)、その他のウイルス、真菌感染症、経口避妊薬、サルファ剤、抗生物質などの薬剤が契機になることがある。
  • ベーチェット病、サルコイドーシス、Sweet病、潰瘍性大腸炎、Crohn病、膠原病、悪性腫瘍に合併することがある。

 

●Bazin硬結性紅斑

  • ダイコン足の後面に紅色硬結が生じる疾患である。
  • 結核菌との関連があるとされていた。
  • 下腿の循環障害を基盤として結核菌がうっ滞した静脈の血管壁で肉芽腫を形成する。
  • 組織のPCRで結核菌DNAがしばしば検出されるが、菌体成分のみで培養では検出されないことが多い。
  • 他臓器(肺など)の結核病巣を探す。ツベルクリン反応は陽性になることが多い。
  • 結核を伴わずステロイドが有効な例も報告されている。
  • C型肝炎に関連して生じることもある。

●血栓性静脈炎

  • 下肢表在静脈の走行に一致した皮下結節をみる。
  • 病理的には隔壁性脂肪織炎

●皮膚型結節性多発動脈炎

  • 真皮・皮下境界部の中動脈の炎症が波及して二次的に脂肪織炎を起こす。

●hypodermatitis sclerodermiformis

  • 真皮の血管拡張と壁の肥厚、血栓を形成し、うっ滞性皮膚炎を伴う。

●深在性エリテマトーデス

  • 皮下硬結を主徴とする。
  • 皮下脂肪織から葉間結合織にかけて著明なリンパ球浸潤を伴う。皮下脂肪は変性して好酸性均質な細顆粒状となる。しばしば、変性脂肪細胞の周囲に好塩基性顆粒を有する大型の泡沫化した組織球を認め、これをフィポフスチン(セロイド)を含有するマクロファージ集積による黄色腫型反応と呼ぶ。
  • 真皮では円板状エリテマトーデスの変化を伴い、lupus band testは約50%に陽性。

●皮膚筋炎

  • 脂肪融解を伴う脂肪織炎が出現することがある。
  • 臨床的には板状硬の局面を認める。

●悪性リンパ腫

  • 皮膚原発悪性リンパ腫は消化管に次いで頻度の高い節外性リンパ腫である。
  • T細胞性リンパ腫が80~90%、B細胞リンパ腫が5~20%とT細胞リンパ腫が多い。
  • T細胞リンパ腫の約半数が菌状息肉症/Sezary症候群である。
  • 次いで成人T細胞白血病/リンパ腫、原発性皮膚CD30陽性リンパ増殖症が多い。
  • 皮下脂肪織炎様T細胞性リンパ腫は皮膚リンパ腫の2%にみられる。

●cytophagic hisitocytic panniculitis(CHP)

  • 1980年にWinkelmannらによって初めて報告された(Arch Intern med 1980;140:1460)。
  • 有痛性の皮下結節が多発する疾患
  • 発熱、肝脾腫、汎血球減少、高脂血症、肝機能障害を伴う。
  • 病理像は壊れた核や赤血球の血球貪食を伴う脂肪織炎。
  • 一部は予後不良な皮下脂肪織炎様T細胞リンパ腫(SPTL)であるため、CHPはSPTLの初期像であるとする意見もある(Arch Dermatol 2000;136:922)。
  • 両者はEBER、TCR再構成(両方ともSPTLで陽性)が異なるとする報告もある。
  • CHPは浸潤リンパ球のmonoclonalityがなく、ステロイドやシクロスポリンなどの免疫抑制治療への反応良好である。

●外傷性脂肪織炎

  • 外傷により脂肪細胞が炎症を起こして生じる浸潤を触れる紅斑性の局面や結節
  • 肥満女性の乳房に好発。下腿にも生じることがある。

●ステロイド後脂肪織炎

  • ステロイドを大量に投与中、急に減量または投与中止後数日で発症する。
  • 乳幼児に多い。
  • 直径0.5~5cmの皮下結節が頭頚部~上半身に好発。

●新生児皮下脂肪壊死症

  • 生後数日から1か月以内に、脂肪が多く分布する臀部や大腿部に種種の大きさの板状の皮下結節を生じる。肩や頬部に生じることもある。
  • 変性した脂肪細胞内に放射状配列をする針状結晶を認める。
  • 数週から数ヶ月で自然治癒するが、一部は高Ca血症を合併し予後不良な場合もある。
  • 新生児仮死、出産時の外傷、母体糖脂質代謝異常、出産時の寒冷刺激などが誘因という報告もある。(皮膚病診療 2003;25:61-64)

●皮下結節性脂肪壊死症

  • 1961年にSzymanskiらにより報告された。
  • ghost-like cellを伴う皮下脂肪壊死が特徴。
  • 慢性膵炎、膵癌、膵転移癌、外傷性膵仮性嚢胞などの膵疾患を合併。
  • 膵間質に逸脱した膵酵素が門脈やリンパ路を介して全身に散布され化学的な自己消化が生じると考えられている。
  • 膵疾患が軽快しても結節が残存することもあり、逸脱酵素が高値でも改善することもあるため、逸脱酵素による自己消化以外の機序も示唆される。(皮膚病診療 2003;25:65-68)

●脂肪萎縮症(リポジストロフィー)

  • 先天性全身型リポジストロフィーは常染色体劣性遺伝疾患で、出生時から全身の脂肪が欠落する稀な疾患。後天性全身型リポジストロフィーは皮膚筋炎や熱性疾患に続発して生じる。両者とも肝腫大、高血糖、高脂血症などの何らかの代謝疾患を合併することが多い。
  • 後天性部分型リポジストロフィーは左右対称の脂肪萎縮を顔面、上肢、体幹上部上部に認める。(皮膚病診療 2003;25:69-72)
  • 低補体血症、膜性増殖性糸球体腎炎、全身性エリテマトーデス、強皮症、皮膚筋炎、シェーグレン症候群などの患者で報告がある。(Br J Dermatol.1979;101:11.J Am Acad Dermatol.1987;16:201)