パラプロテイン血症による腎障害

  • パラプロテイン血症とはB細胞の異常により単クローン性の免疫グロブリンやL鎖が血中、尿中に増加する状態である。血中/尿中の蛋白免疫電気泳動にてM蛋白として検出される。
  • 形質細胞の悪性増殖により起こるものと明らかな形質細胞/B細胞系の腫瘍性疾患を認めないものの2種に大別される。
  • 悪性腫瘍に伴うものは多発性骨髄腫、POEMS症候群、形質細胞腫、悪性リンパ腫、H鎖病、ALアミロイドーシスがある。
  • 悪性腫瘍を伴わないものはMGUS(monoclonal gammopathy of undetermined significance)と総称される。B細胞性疾患の基準を満たさないM蛋白血症、非B細胞性悪性腫瘍の他、悪性疾患以外でも自己免疫性疾患(関節リウマチ、強皮症、橋本病)、皮膚疾患(壊疽性膿皮症、壊死性黄色肉芽腫症)、肝疾患(肝炎、肝硬変)、感染症(結核、感染性心内膜炎)が原因となる。
  • これらパラプロテイン血症による腎障害を総称してパラプロテイン腎症と呼ぶが、病型は障害された組織とパターンによりさまざまである。
  • 単クローン性蛋白を基質にして細線維を形成する場合、また顆粒状の沈着物を形成する場合は糸球体腎炎となる。蛋白尿をはじめに生じて進行するとネフローゼ症候群になる。血尿は認めないことが多い。腎機能は徐々に低下して慢性腎不全になる。
  • 細線維を形成する疾患はアミロイドーシス、Immunotactoid glomerulopathy(ITG)、Fibrillary glomerulonehritis(FGN)がある。Congo red染色にて赤橙色に染色され、偏光顕微鏡で緑色複屈性をしめすのがアミロイドーシスである。
  • ITG/FGNは非アミロイド性細線維が電顕にて特有なパターンの沈着を認める。32~50nmの幅で並行に配列するのがITGで、18~22nmの細線維が不定の方向に交差しているのがFGNである。
  • 顆粒状沈着を示すのはL鎖沈着症(Light chain deposition disease:LCDD)、L・H鎖沈着症、H鎖沈着症などである。これら単クローン性免疫グロブリン沈着症の原因疾患は多発性骨髄腫、マクログロブリン血症、MGUSなどさまざまである。また尿細管で円柱形成するのは骨髄腫、L鎖円柱沈着症でみられる。微小血栓形成が起こるのがマクログロブリン血症、クリオグロブリン血症である。

骨髄腫腎

  • 多発性骨髄腫は急性腎不全をしばしば起こす。
  • 高Ca血症、アミロイドーシス、L鎖沈着症、尿酸腎症、骨髄腫細胞の腎浸潤、治療に伴う腫瘍崩壊症候群など複数の要因が絡みあう。
  • 高Ca血症は腎血管収縮作用、尿細管でのNa/水再吸収抑制により腎性尿崩症、単クローン性L鎖が尿細管腔に沈着して尿細管閉塞を起こす。

アミロイドーシス

  • アミロイドーシスでは90%に腎病変を合併し、この中で約60%がネフローゼ症候群である。また60歳以上のネフローゼ症候群の10%はアミロイドーシスによるため、ネフローゼ症候群の鑑別診断として重要である。
  • 腎症を起こしやすいアミロイドーシスは免疫グロブリンL鎖によりアミロイド蛋白が作られるALアミロイド-シス、関節リウマチなど慢性炎症により作られるアミロイド蛋白Aが原因となるAAアミロイドーシスである。
  • 腎症状の初発症状はほとんどが蛋白尿で、血尿はみとめないか僅かである。蛋白尿は徐々に増加しネフローゼ症候群になる。腎機能も初期には正常でも徐々に低下し、慢性腎不全に陥る。時にRPGNの経過をとる事もある。
  • アミロイドーシスの診断は病理組織による。腎臓や直腸、歯肉、腹壁脂肪組織、皮膚などの生検が行われる。
  • 腎生検では80~100%の糸球体/細動脈にびまん性の無構造な硝子様沈着物が光顕で認められる。Congo-red染色、電子顕微鏡で確定診断できる。
  • ALアミロイドーシスの基礎疾患は多発性骨髄腫(10~20%)のこともあるが、多くは形質細胞異常による原発性アミロイドーシスである。血清または尿中にパラプロテインを90%に認める。
  • 治療は従来MP療法(経口melphalan+PSL)が行われてきたが、有効率は30%に留まっており、寛解例は稀であった。最近では自家末梢血幹細胞移植を併用した大量melphalan療法やVAD療法(骨髄腫の寛解導入に用いられるレジメでVincristine、Doxorubicin、dexamethasoneを用いる)、経口melphalan+大量dexamethasone療法などが行われ、治療成績は向上している。
  • AAアミロイドーシスは慢性炎症がコントロールできない場合に起こる。原疾患は関節リウマチが多い。炎症性腸疾患や気管支拡張症によるものも報告されている。炎症のコントロールが重要で血清SAA正常化を目指す。TNF-α阻害薬、抗IL-6抗体が関節リウマチによるアミロイドーシスに有効である。